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社説・コラム

社説 騒乱のエジプト 暴力では解決できない

 エジプトでこれだけ多くの人命が奪われるのは、約30年続いた独裁政権の時でもあまり考えられなかったことだろう。国際社会が一斉に非難の声を上げたのは当然である。

 軍のクーデターから1カ月半。モルシ前大統領の復権を求めてカイロで座り込みを続けていた支持者を治安部隊が強制的に排除した。衝突は各地に広がり、犠牲者は増え続けている。

 暫定政権は治安部隊の権限を強める非常事態宣言も発令した。権力を握った者が市民の抗議行動を力ずくで弾圧することは断じて許されない。軍や暫定政権は強権的な対応をただちにやめるべきである。

 軍のクーデターが若者やリベラル派から支持を集めたのは確かだ。暫定政権によるモルシ派の強制排除も、国政の「正常化」を急ぐためという。とはいえ、今回の暫定政権側の言い分は身勝手が過ぎる。

 モルシ氏を支持するイスラム組織ムスリム同胞団からすれば、初めての民主的な選挙で決まった大統領を非合法的に解任されたことは納得できまい。抗議活動を続けているのも一理あるだろう。

 こうした経緯を踏まえれば、権力を奪った側の軍や暫定政権は、同胞団と粘り強く対話を続けるしか道はなかったはずだ。

 それなのにモルシ派を強制的に排除したことで、政権の正統性はさらに厳しく問われている。強制排除に反対していたリベラル派のエルバラダイ副大統領が職を辞したのは、象徴的な出来事である。

 暫定政権は今後、行程表に基づき、年内に新憲法を制定し、来年前半に大統領選をするという。現状を考えれば、予定通りに進むのかは見通せない。暴力では何も解決しないことだけは肝に銘じてほしい。

 一方、同胞団側にしても過激派がテロに走る危険性が指摘されている。治安部隊との対立がこれ以上、激化することがないよう自制を求めたい。

 エジプトの騒乱を収めるには国際社会が厳しい監視の目を向ける必要があろう。各国は暫定政権への批判を強めている。

 米国は軍のクーデターには比較的寛容だったが、ここにきてオバマ大統領が治安部隊の強制排除を強く非難した。

 ただ大統領は、米国が続けているエジプト軍への資金援助については言及しなかった。援助の停止も念頭に、軍に強く働き掛けてもらいたい。

 アフリカへの支援の強化を打ち出している日本も、外交を通じてエジプトの安定に貢献できる道を探りたい。騒乱により、進出している日本企業にも影響が出ている。

 各国が個別に介入するだけでは十分ではあるまい。国際社会が一枚岩となり問題に向き合うことが不可欠だ。

 緊迫するエジプト情勢を受け、国連の安全保障理事会は緊急協議を開いた。暴力停止の重要性や最大限の自制を当事者に求めることで一致した。

 だが、より強い声明の採択には、中国が反対したという。各国の立場はあろうが、人道上の問題として協力すべきだ。

 アラブの盟主といわれてきたエジプトが乱れれば、中東全体が不安定になりかねない。何としても騒乱の泥沼化は防がなければならない。

(2013年8月17日朝刊掲載)

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