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社説・コラム

『潮流』 武器をアートに

■論説委員 岩崎誠

 芸術作品には何が言いたいのか首をひねるものもある。だがここまで強烈なメッセージが伝わるのはまれだろう。大阪の国立民族学博物館の企画展「武器をアートに」を見に行った。

 かつて内戦に見舞われたアフリカ・モザンビークのアーティストたちが手掛けた20点ほどの造形作品。近寄るとぎょっとした。全て本物の銃や対戦車ロケット砲などをばらばらにして材料としているからだ。

 共通するテーマは何げない日常の輝きだ。若い夫婦が仲良く自転車に乗る―。そんな姿を等身大でかたどったものは、民族学博物館のための特別制作。途上国にばらまかれた旧ソ連製の自動小銃「AK47」を100丁分以上使ったそうだ。

 内戦後の平和構築のための民間プロジェクトの一つ。21年前に停戦はしたが、外国から流入した数百万単位の武器が人々の暮らしの中に残る。それらを自転車や農具と交換し、芸術作品に変えて武装解除の意義を訴えてきたという。

 注目したいのは、日本の地方の取り組みが深く関わることだ。松山市のNPO法人、えひめグローバルネットワークの15年来の活動である。

 代表理事の竹内よし子さんから話を聞いた。市にかけあって計660台の放置自転車を送り、武器と引き換えられたという。企画展で公開された作品の多くも松山に集まったものだ。

 いま現地の状況は厳しい。手つかずの武器は気が遠くなるほど多いのに、資金不足で活動は危機にひんしているようだ。一方でモザンビークの著しい経済成長の方には日本の政財界から熱い視線が注がれる。

 もっと内戦の癒えぬ苦しみにも寄り添うべきだろう。武器で命を奪われた人たちの悲鳴を刻むアートは、日本各地の展示も検討中という。地方発の平和貢献の輪に、瀬戸内のこちら側も呼応できないものか。

(2013年8月17日朝刊掲載)

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