×

社説・コラム

『記者縦横』 「ゲン」閲覧制限は疑問

■ヒロシマ平和メディアセンター 二井理江

 当たり前だと思っていた。漫画家の中沢啓治さんが昨年9月、矢野南小(広島市安芸区)を訪れ、6年生と交流した時、「中沢さんにとって『平和』とは何ですか」の問いに、こう答えた。「皆さんとこうして自由に話ができる。いろんな人の意見を聞いて、ああそうだな、と思えるのが平和で、素晴らしい」

 言論や表現の自由が保障されている社会。今の日本では当然と思われているが、戦時中は違った。中沢さんが幼い頃、父が反戦を訴え、特高警察に連行された。だからこそ、表現の自由イコール平和と言えるほど、重要さを知っていたのだ。

 松江市教委が、中沢さんの代表作「はだしのゲン」を、描写が過激として市内の小中学校に、図書館での子どもの閲覧を制限するよう要請。所有する全ての学校が従っていた。

 妻ミサヨさんによると閲覧が制限されたのは初めて。表現の自由が揺らぎかねない事態に、「戦時中に戻ってしまうのでは」と懸念を隠さない。

 実は、「はだしのゲン」の連載開始後間もなく、読者から「気持ち悪い」との声が出た。中沢さんは「読んでもらえなければ意味がない」と表現を薄めて描いた経緯がある。「現実はそんなもんじゃない。しかし、これで戦争が恐ろしい、怖いと思ってもらえれば作者冥利(みょうり)に尽きる」と。

 連載開始40年後に起きた今回の問題。生きていたら何と言うだろうか。

(2013年8月19日朝刊掲載)

年別アーカイブ