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社説・コラム

社説 米新型核実験

核軍縮宣言 まやかしか

 被爆地からすれば、オバマ大統領のベルリン演説は何だったのかと言いたくなる。核兵器を削減する意思をあらためて示したのではなかったか。

 演説の時期と重なる4月から6月までの間に、米国がニューメキシコ州の研究所で核兵器の性能を調べる新型の核実験を実施していたことが明らかになった。その目的は、核兵器をいつでも使える状態にしておくことにほかならない。

 新型実験は大爆発を伴う臨界には至らないとはいえ、2010年から9回も繰り返されている。オバマ大統領の核軍縮の宣言は本心なのかと疑わざるを得ない。

 オバマ大統領がプラハで「核兵器なき世界」を唱えたのは4年前だった。だが自ら掲げた目標からすれば、目立った実績は挙がっていない。

 昨年11月の大統領選で再選され、ことし1月に2期目の政権がスタートした。残された任期は長くない。

 なぜオバマ大統領は核兵器の削減を進められないのか。まず米議会の共和党が、核軍縮の政策に強く抵抗していることがある。その象徴こそ、国際社会が求めている包括的核実験禁止条約(CTBT)への加盟だろう。米政府は署名しているが、議会が批准を拒んでいる。

 米国内で核軍縮に反対する世論が根強いこともあろう。ただし国際社会に目を移せば、核兵器の非人道性を理由に廃絶を訴える国々が増えている。

 それにもかかわらず、オバマ大統領が新型実験を継続するだけでは、もう全て諦めてしまったのかと首をかしげる。

 オバマ大統領は6月、ベルリンで演説し、ロシアとそれぞれ1550発まで削減すると約束している配備済みの戦略核弾頭を千発レベルにしたいと表明した。決して高い水準の目標とはいえないものの、新たな方針を実現するためには、米国とロシアの信頼関係の醸成が欠かせないはずである。

 ところが、オバマ大統領は数少ない前向きな取り組みも、つぶそうとしている。9月にロシアを訪問してプーチン大統領と核軍縮について話し合う予定だった首脳会議を取りやめにした。米政府の個人情報の収集活動を暴露した中央情報局(CIA)元職員の一時亡命をロシアが認めたことに対する報復だという。

 元職員への対応を理由に、国際社会が抱える普遍的な問題である核軍縮をおろそかにするのは理解しがたい。

 新型実験にしてもロシアとの関係にしても、米国が国内の事情だけを考えて行動を続ければ、核軍縮どころか核兵器の拡散を促しかねない。

 このままでは国際社会が核拡散防止条約(NPT)体制から外れて核実験を繰り返す北朝鮮などに核放棄を迫っても、説得力を欠くだろう。少なくとも米国は口先だけにとどまらず、核軍縮を目に見える形で実行する必要がある。

 駐日米大使を4年間務めたジョン・ルース氏は離任を前に、オバマ大統領が被爆地を訪問する可能性に言及した。原爆の非人道性を身をもって知るためにも、すぐにでも被爆地を訪れるべきだ。そうすれば、核兵器廃絶への意欲が再び湧いてくるのではないか。

(2013年8月21日朝刊掲載)

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