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社説・コラム

天風録 「はぐいい」の叫び

 目に刺さったままだった細かなかけら。弔いの後、遺族がお骨を探ったという。不思議なことに見つからなかった。ピカへの恨みを残すことをよしとせず、携えて現世から旅立ったのだろうか▲ある被爆者の訃報に接した。福地トメ子さん、94歳。あの日、爆風に砕け飛んだガラス片で両目の視力を失う。それでも5人の子どもを育て上げた。乳をうまくふくますことができないと、小さな唇を指先で探った▲戦後の苦労は天命と受け入れた。ただ、光を失って後に生まれた3人の顔を知らない。「ひとめ見たい」。まぶたに描くことしかできない無念さ。「それだけが、はぐいい(悔しい)」と▲広島赤十字・原爆病院の壁は、ガラス片が突き立ったまま残る。いや、今なお生身の体にとどめた人がいる。うずくのはその傷だけではない。心の傷もそうだ。新型核実験を続ける原爆投下国に、声なき声は届いているのだろうか▲あのグーグルが被爆者の遺品などの画像を電脳世界で公開するという。結構な話だが、見て聞いて初めて分かることもあろう。オバマ米大統領がもし広島を訪れることがあれば、直接触れてほしい。「はぐいい」の叫びにも。

(2013年8月21日朝刊掲載)

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