×

社説・コラム

『潮流』 普段着の広島

■報道部長 高本孝

 外国人を魅了する「感情を揺さぶる街」―。そんな見出しを掲げた特集記事がこの夏、週刊誌「アエラ」に載った。取材対象は、ほかならぬ広島である。

 世界最大の旅行口コミサイトがまとめた外国人に人気の国内観光地ランキングで、原爆資料館と原爆ドーム(広島市中区)は1位、厳島神社(廿日市市)は4位。いずれも2年連続で、東京や京都に劣らない人気だ。

 そこに着目したアエラの記事は、二つの世界遺産を軸に、主に欧米人から見た広島の魅力を探る。

 被爆という歴史の重さ、コンパクトな都市機能…。記事はそうした広島論を展開し、海外からの旅人や常連が語らうバーの様子で締めくくられる。実は外国人の集う飲食店の多さは、多くの人が注目する点だ。

 米国から広島に移り住んで15年の友人は、自称・流川ファン。「外国人でも日本人でも度々会えるから仲良くなれる。街が大きすぎる東京だと無理かもね」。そして広島を「『呼吸』しやすい街」と表現する。

 西日本有数の繁華街と歓楽街には、お好み焼きの鉄板を挟む独特の食空間がひしめく。東でも西でも数百メートルも歩けば、緑濃い河岸で憩える。

 たくましくも飾らない日本の地方都市の空気と人情を、目いっぱい吸い込める。友人の言う「呼吸のしやすさ」だろう。同じ都市圏にある二つの世界遺産に劣らず、観光地としてのポイントの高さに寄与しているような気がする。

 人類の負の遺産から学ぶ「ダークツーリズム」が、福島第1原発事故を機に、提唱されている。先例とされるヒロシマの観光地としての使命は重い。

 一方、普段着の広島も捨てたものではなさそうだ。「歩いているだけで幸せ」とは、アエラの記事にあるロシア人のコメントである。身びいきはさておき、磨きをかけたい。

(2013年8月22日朝刊掲載)

年別アーカイブ