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社説・コラム

美術散歩 作風変転に「戦争」の影

 殿敷侃(ただし)(1942~92年)は広島市出身の美術家。廃材を使った環境アートなどが、現代美術を志す地元の後進に大きな影響を与えた。その足跡をたどる展示だ。

 20代の最初期の作品が見られるのは貴重といえる。65年作の油彩「川岸」は、被爆地の戦後を象徴する光景。それにふさわしい厚みのあるタッチを見せる。

 父母の命を奪った原爆への怒りを込め、遺品の衣などを描いた細密画は初期の代表作だ。きのこ雲をポップアート風に連写した版画、晩年を彩った環境アート…。最先端の表現を求めて疾走する姿が伝わる。

 生き急ぐように変転する作風。戦後ではなく、戦中に青春を生きたような切迫感を感じる。3歳で被爆し、50歳で肝臓がんで亡くなった。彼の中で「戦争」は続いていたのかもしれない。

 はつかいち美術ギャラリーが毎年夏に開く平和美術展の第17回。月曜休館。(道面雅量)

 ◎殿敷侃―現代社会への警鐘(メッセージ)

 9月1日まで、廿日市市下平良1丁目、はつかいち美術ギャラリー

(2013年8月24日朝刊掲載)

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