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社説・コラム

「教育現場へ配慮不足」反省 松江市前教育長インタビュー はだしのゲン閲覧制限

 松江市教委が小中学校に漫画「はだしのゲン」の閲覧制限を求めた問題で、要請当時の事務局責任者だった福島律子前教育長(67)=現市総合文化センター館長=が23日、中国新聞のインタビューに応じた。経緯を振り返り「良かれと思ったが、教育現場などに配慮が足りなかった」と述べた。(明知隼二)

強制意図は否定 「暴行場面に驚き判断」

 ―閲覧制限問題の発端を教えてください。
 昨年4~5月、市内の男性が、作中の日本兵の残虐行為の描写を「事実ではない」と、学校図書館からの撤去を市教委に繰り返し求めてきた。やりとりを録画されインターネットで公開されたが、担当課が「撤去は指示しない」と突っぱねた。

 同8月、同じ男性が市議会に撤去を求める陳情を提出し、市議会が取り上げた。そこで、市教委でも全10巻を入手し読んだ。

 ―作品にどのような印象を持ちましたか。
  原爆の悲惨さを伝える作品と評価するが、後半を初めて読み性的暴行などの場面に驚いた。子どもへの配慮が必要だと思った。

 ―陳情は不採択でした。なぜ制限の要請に踏み込んだのですか。
 議会が取り上げた以上、市教委として判断を示すべきだと考えた。

 ―教育委員会議に諮りませんでした。
 要請はあくまでもお願いで、教育長の権限の範囲内と考えたが、認識が不十分だった。

 ―2度の要請でほとんどの学校が従いました。強制性を伴うと考えませんでしたか。
 強制の意図はなかったが、権限を持つ市教委の発言という点に配慮が足りなかった。

 ―「表現の自由」に関わる話。誰も問題視しなかったのですか。
 描写に強い印象を受け「子どもへの配慮」の視点に引っ張られた面があった。要請の前に一歩とどまる必要があったが、手続きのまずさに気付けなかった。

 ―どうすべきだったと考えますか。
 教育委員や学校現場の声を聞き、判断を現場に委ねるべきだった。議論の過程を明確にしなかったため、圧力に屈したわけではないが、結果的に歴史認識を問題にした陳情者の考えに賛同したと受け止められた面もある。

 ―市教委に2千件を超す意見が届き、大半が要請撤回を望む声です。
 今は判断する立場にない。教育委員会議の判断を見守りたい。

(2013年8月24日朝刊掲載)

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