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社説・コラム

社説 原発汚染水漏れ 対症療法もはや限界だ

 東京電力福島第1原発の事故は依然、収束どころか続いている。高濃度の汚染水が、またも漏れた。

 海へ流出した懸念も強まり、地元漁協は来月以降、福島県沖での試験操業を中断すると決めた。復興、生活再建と逆行する苦渋の決断であろう。

 これ以上、漏えいを繰り返してはならない。放射性物質を封じ込めない限り、原発事故は終わらない。東電と政府は重大事態と認識し、再発防止策を徹底すべきだ。

 今回、約300トンもの水漏れを起こしたタンクは鋼鉄製。だが溶接はせず、部材をパッキンとボルトで組み合わせる簡易な構造だった。敷地内に約千基あるタンクのうち、350基は同じタイプである。

 接ぎ目が劣化する可能性は予見できたはずだ。なのに東電側は、日々の見回り点検の記録さえ残していないという。このため、いつから漏れ出したかも確認できていない。ずさんと言うほかない。

 今回の事態を受けた緊急点検でも新たに、同種のタンク2基の周辺で高い線量が確認され、漏えいの疑いが出ている。

 当面は同種のタンクの監視を強めるしかあるまい。原因究明と並行し、全てに水位計を付けてはどうだろう。さらに、接ぎ目をコーティング材で覆うべきだとの専門家の指摘もある。

 漏れた場合に被害拡大を防ぐ手だても不可欠だ。タンク周りは敷地を防水シートで覆って地面への浸透を防ぐ、あるいは雨水の排水溝には流れ込まないようにする。そうした対策に万全を期してほしい。

 とはいえ、これらは対症療法にすぎない。汚染水漏れを繰り返す構造的な要因は、敷地内に流れ込む大量の地下水にほかならない。汚染水と混じり合い、毎日400トンもくみ上げる必要がある。政府の試算では、このほか日量300トンの汚染水が海に流れ出ている。

 いたちごっこでタンクを増設しても早晩、限界が来る。しかも、どこで保管しようとも水漏れの懸念からは逃れられない。海洋への流出は環境や漁業に影響を広げ、日本に対する国際社会の不信感も増長させる。

 抜本対策が求められよう。要は、汚染水の発生・保管量をどう減らすかだ。

 だが汚染前の地下水をくみあげ、海へとバイパス放出する計画には地元の同意が得られていない。東電への不信感が背景にあるという。汚染水から放射性物質を除去する装置もあるが、故障して止まっている。

 こうした状況を踏まえ、安倍晋三首相は「東電任せにせず、国が対策を取る」と明言した。危機感の表れと受け止めたい。

 地下水の敷地内流入を防ぐため、経済産業省が地中を凍土で囲む構想を打ち出したのもその一つだろう。しかし技術やコスト面で不透明な部分が残り、完成には1~2年かかるという。

 ことは急ぐ。しかも東電は実質国有化されている。ここは政府が前面に立つときだ。地下水のバイパス放水も、国が責任を負う姿勢を見せれば、地元の受け止めも変わるに違いない。

 もちろん国民からすれば、ずるずると公費投入が増えるばかりでは納得しかねる。綿密な工程表と費用の見積もりを、きちんと示してもらいたい。

(2013年8月25日朝刊掲載)

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