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社説・コラム

『備後語録』 立命館大名誉教授 安斎育郎さん

立命館大名誉教授 安斎育郎さん(73)=京都府宇治市

真実見極める力養おう

 「見たり聞いたりしたことが、全て真実ではない。疑うことも大事だ」。三原市仏教興信会などが開いた仏教夏期講座で「だまし世を生きる知恵」と題して講演した。

 身の回りのうそから福島第1原発事故をめぐるデマ、はてはトランプやスプーン曲げまで、話は多岐にわたった。手品を用いたのは「人はだまされやすいというメッセージを伝えるため」。

 「だまし」の例として国の原子力政策をやり玉に挙げた。国民への説明も、都合の良い情報だけを出して話を組み立てていると主張。「安全な部分だけ見せ、肝心な危険な部分を見せなかった」と批判する。

 東京大で原子力工学や放射線防護学を学んだ。日本に原発が一基もなかった時代、卒業論文のテーマに「原子炉施設の災害防止」を選んだのは「放射線の恐怖が嫌というほど身に染みていたから」。そして40年ほど前に福島県の住民と始めた原発反対の運動は今も続けている。

 国境なき手品師団の名誉会員。スプーン曲げやカードの色が変わる手品ではタネを明かした。詐欺や霊感商法などにも触れ「思い込みや欲が真実を見えなくする。見極める力を養おう」と呼び掛けた。(山本庸平)

あんざい・いくろう
 4~9歳の時、福島県で疎開生活を送る。東京大大学院を経て、立命館大教授。1995年に同大国際平和ミュージアム館長となり、現在は名誉館長。2011年、安斎科学・平和事務所を開き、執筆や講演活動をしている。

(2013年8月27日朝刊掲載)

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