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社説・コラム

社説 シリアへ軍事介入か 流血の事態繰り返すな

 アサド政権と反体制派との内戦が続くシリアをめぐり、不穏な空気が一気に濃くなった。

 内戦で大規模な化学兵器が使われたとケリー米国務長官が断定した。オバマ大統領は「ふさわしい対応」を検討している、とされる。シリアの軍事施設に対するミサイル攻撃を指すとみられる。

 化学兵器の使用は到底許されるものではない。国際社会は毅然(きぜん)としたメッセージを示す必要があろう。しかし、だからといって軍事介入が無条件で容認されるものでもないはずだ。

 何より米政府は今のところ、化学兵器を使ったのがアサド政権だとの確証は得ていないようだ。それでも軍事介入に前のめりの姿勢は、まるで大量破壊兵器の開発疑惑を口実にした「大義なき」イラク戦争の開戦前夜と同じではないか。

 毒ガスらしい化学兵器が使われたとみられるのは21日、首都ダマスカス近郊でのこと。反体制派は多数の死者が出たとし、政権側が使ったと主張するが、アサド政権は否定している。

 シリア内戦では以前にも毒ガス使用の疑いがあり、国連が調査団を派遣しようとしたがアサド政権との協議が難航。やっと団員が入国した直後の今回の再使用疑惑である。政権側が使ったとするには、ふに落ちないタイミングであるのは確かだ。

 ただ政権側はその後、同じ場所への空爆を続けてきたとされる。証拠を消そうとしていると見られても仕方がない。

 毒ガスは第1次世界大戦後のジュネーブ議定書で戦時使用が禁止されたが、開発や生産は不問に付される中途半端な状態だった。旧日本軍が大量に製造した苦い過去が私たちにもある。

 1997年にやっと発効したのが、生産、保有、使用を丸ごと禁じる化学兵器禁止条約である。昨年末までに188カ国が加盟した。だがシリアをはじめ隣接するイラクやイスラエル、エジプトは加盟していない。

 その国際法違反の兵器を大量に保有していると確実視されてきたのがシリアだ。その意味で仮に今回は使用していないにしても、政権の責任は免れまい。内戦の混乱に乗じた国外流出の懸念も高まっている。

 ところが国際社会は内戦終結へ有効な手だてを打てないでいる。米ロの対立が大きい。軍事介入を辞さない米国に対し、ロシアもアサド政権を擁護する姿勢を変えようとしない。

 このままでは仮に国連調査団が毒ガス使用の証拠をつかめたとしても、安全保障理事会の協議は空転する可能性が高いだろう。同意なしの軍事介入に米国が踏み切れば、安保理ひいては国連の存在価値は地に落ちる。

 2年前の「アラブの春」を機に始まったシリアの混乱で既に10万人以上の命が失われた。それでも政権が継続するのは、国際社会は一枚岩になれないと見くびられているからに違いない。

 これ以上、惨事が繰り返されてはならない。米国は軍事介入の自重を、ロシアは内戦終結に向けて政権の説得を、それぞれ心掛けてもらいたい。

 シリアにとっては、自力で平和的解決や民主化を図る正念場でもあろう。アサド政権は、国民の命を守るという統治者として最大の責務を自覚したうえで、反体制派との対話の糸口を真摯(しんし)に探すべきだ。

(2013年8月28日朝刊掲載)

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