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社説・コラム

社説 秘密保護法案 「知る権利」は大丈夫か

 国民の「知る権利」は守られるのだろうか。この秋の臨時国会に政府が提出する構えの「特定秘密保護法案」の概要が、おととい自民党のプロジェクトチームに示された。

 外交や防衛、テロ対策などの重要情報を行政機関の長が「特定秘密」に指定し、漏えいすれば最高で懲役10年を科す。現行の国家公務員法では情報漏えいの罰則は懲役なら1年以下にすぎない。大幅な強化といえる。

 網を広げたのも目を引く。公務員や政務三役の国会議員のほか、国と契約関係にある民間企業の社員も対象に加える。さらに情報を得ようと働きかけた側も手段が「不正」とみなされれば同じ罰則になるという。

 安倍晋三首相は、外交と安全保障の新しい司令塔となる国家安全保障会議(NSC)の年内創設を目指す。それに合わせた情報管理の徹底に、この法案を使おうとしているようだ。

 だが民主主義国家で当然のルールである情報公開の根幹に関わる話だ。政権の勢いに任せて前に進めるなら禍根を残す。

 問題点は少なくない。何より「特定秘密」が何を指すのかあいまいだ。つまり時の政権の解釈次第ということか。国益上守るべき機密というより国民に知られたくない情報を隠蔽(いんぺい)する事態も想像にかたくない。

 報道の自由も制約されかねない。取材活動が場合によっては「漏えいに手を貸した」と罰せられる恐れが残るからだ。

 政府側も配慮はするつもりなのだろう。報道の自由の尊重は法案に明記する方向という。その一方で自民党の重鎮から「正当な取材は問題ないが、不当な取材なら除外されない」という声が出たのは見過ごせない。

 報道機関は権力の監視のため情報源に食い込み、真実に迫ろうとする。その行為が恣意(しい)的に「不当」とみなされる可能性はやはり否定できまい。

 そもそも秘密保持を明記した国家公務員法や自衛隊法があるのに、大きく踏み込む新法がなぜ必要なのか説明が乏しい。

 本来、秘密保全法制の議論はNSCという組織論とは関係ないはずだ。本格化したのは民主党政権の時代である。尖閣諸島周辺での中国漁船衝突の映像を海上保安官が流出させた問題が直接のきっかけとなり、政府有識者会議が報告書をまとめた。その中身が安倍政権下の法案のベースになったといえる。

 背景に米国の圧力もあるのは確かだろう。米軍再編などを機に日本の機密保持が緩すぎると指摘してきたからだ。米軍と自衛隊がさらに一体化し、軍事的な情報を共有していく。そうした流れの一断面とみていい。

 むろん外交や安全保障では、一定に情報を伏せるのもやむを得ない。しかし米国のように包み隠さず記録し、時期がくれば開示する制度が整ってこそだ。

 日本は先進国で最も情報公開に後ろ向きとされる。福島第1原発事故でも「情報隠し」の体質が浮き彫りになった。民主党政権は震災後、「知る権利」を明文化した情報公開法の改正も目指したが挫折してしまった。

 こうした状況で、特定秘密保護法案を単にNSCと関連付けて国会に上げていいのか。与党内にも慎重論があると聞く。提出は急ぐべきではない。そして秘密保全と情報公開の本質をめぐる幅広い議論を求めたい。

(2013年8月29日朝刊掲載)

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