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社説・コラム

社説 温室効果ガス削減 独自目標 打ち出せるか

 猛暑に豪雨、渇水と、この夏は異常気象が続いた。地球温暖化の影響が疑われている。原因とされる温室効果ガスの削減に対し、政府はすっかり熱が冷めたかのようである。

 今年11月には気候変動枠組み条約第19回締約国会議(COP19)がポーランドで開かれる。ところが、先進国の中で日本だけが数値目標をまだ示せていない。このままでは国際的な信用低下が進みかねない。早急に提示する必要があろう。

 かつて民主党政権の時代に、日本は「1990年比25%削減」を掲げた。しかし原発事故後、見直しを表明し、実質的に白紙状態が続いている。

 安倍晋三首相が1月、「25%削減」の抜本的な見直しを環境、経済産業の両省に指示したものの、意見対立から策定作業が滞ったためだ。

 環境省としては原発の稼働割合を何通りか仮定し、幅のある目標数値を示したい。これに対し、経産省は「原発の立地自治体などに予断を与える」として目標提示に否定的という。

 「原発はクリーンエネルギーである」として、これまでは二酸化炭素(CO2)排出削減の頼みとしてきた。「25%削減」も原発を前提としたものだ。

 安倍政権は原発再稼働への手続きを進め、輸出にまで力を入れようとしている。だが最悪のレベル7とされた福島第1原発事故は、収束の見込みが全く立っていない。そればかりか、タンクから高濃度汚染水が漏れ、レベル3の重大な異常事象とされる始末である。

 これで原発回帰に国民の理解が得られるだろうか。温暖化防止についても原発に頼らぬ独自の目標を探るべきではないか。

 温暖化対策は人類の生存にとって待ったなしだ。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会が今月、最新の報告書案で警告している。

 今世紀末、平均で海面水位が最大81センチ上がり、気温も4・8度上昇する―。

 温暖化は、人間の活動が原因である可能性が「極めて高い」とも踏み込んだ。

 気になる予測はまだある。大量の酸素を供給し、「地球の肺」とも呼ばれるアマゾンの熱帯雨林。そこで洪水や干ばつが繰り返され、生態系に異変が出始めている。あおりでブラジル北東部の高地が、100年後には砂漠化してしまう恐れまであるという。

 確かにCO2が温暖化の主因と断じることを疑問視する見方はある。だが日本など15の先進国と欧州連合(EU)は既に、2020年までの自主的な温室効果ガス削減目標を示すことで国際合意をしている。その責任は果たさねばなるまい。

 先進国と途上国との対立から、温暖化対策の国際的な取り組みは後退が目立つ。だが、ここにきて米国と中国が行動計画をまとめることで合意し、再び削減への機運が高まりつつあるようだ。

 日本の技術力を発揮する好機でもあろう。効率よい最新の火力発電をはじめ小水力、太陽光、風力による発電技術の輸出に力を入れるべきだ。省電力技術の高度化でも貢献できる。

 原発事故の教訓として得た、省エネの生活スタイルも併せて広められよう。温暖化防止に独自の役割を見いだしたい。

(2013年8月30日朝刊掲載)

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