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社説・コラム

『潮流』 2度目の修学旅行

■論説委員 金谷明彦

 友人たちと、はしゃいだのは覚えている。古都・奈良を訪れた小学6年の修学旅行。だが歩いたはずの街の記憶は、仰ぎ見た東大寺の大仏だけになっていた。

 それ以来30年ぶりの再訪だった。ことし6月、「親子で行く修学旅行」と銘打ったJRグループの1泊2日のツアーに家族で申し込んだ。東大寺のほか、興福寺、唐招提寺、薬師寺…。教科書に出てくる寺社や仏像を巡り、お坊さんに解説してもらえる。

 かつて訪ねて退屈と感じた寺も、随分と違って見えた。大仏の威容は変わらなかったが、今回は先人たちが込めた願いにも思いをはせることができた。自分が年を重ね、いにしえの歩みに関心を持つようになったからにほかなるまい。

 広島や宮島を回る同じシリーズのツアーが今月から10月まで開かれている。1泊2日の日程で計4回ある。ボランティアの説明を受けながら原爆資料館や原爆ドームを見る平和学習などが盛り込まれた。

 初回は首都圏や関西から親子連れ75人が参加した。親からは「修学旅行以来初めて広島を訪れた」「その時は駆け足だったが、今回はゆっくりと見られた」などの声が聞かれたという。

 学びながら観光する「大人の修学旅行」が人気だが、子どもの頃に訪れた場所を大人になって再訪する「2度目の修学旅行」もおもしろい。懐かしさとともに再発見もあるはずだ。

 旧友たちと一緒にたずねても、盛り上がるだろう。とりわけ広島市は毎年30万人の修学旅行生を受け入れているのだから、こうしたツアーをもっと増やしてもよいのではないか。神楽や広島湾クルーズなど新たな魅力を知ってもらう機会にもなろう。

 かつての修学旅行生が大人になり親になって広島を再訪すれば、被爆の悲惨さ、平和の尊さも昔より実感できるかもしれない。

(2013年8月31日朝刊掲載)

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