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社説・コラム

社説 原発汚染水対策 五輪招致のためなのか

 7年後の夏季五輪の開催地が日曜の朝までに決まる。東京招致にどう影響するだろうか。

 福島第1原発の汚染水漏えいをめぐり、政府は基本方針と総合的な対策を打ち出した。関係閣僚会議の設置や、470億円の国費投入を掲げる。

 東京電力任せを返上し、国が前面に立つと世界に示した形だ。それだけ緊急かつ深刻な問題であることは論をまたない。

 だが、おもむろに腰を上げたのが五輪招致への危機感からならば、場当たり感は否めない。そもそも不安に真っ先に応えるべき相手は、国際オリンピック委員会(IOC)の委員ではない。地元住民や試験操業の中断に追い込まれた漁業関係者のはずである。

 事故で溶けた核燃料を冷やすため、原子炉に常に水がかけられている。加えて地下水が建屋に流れ込むことから、汚染水が増え続けている。

 東電はタンクに詰めて保管しようとしている。だが地下水は大量で回収しきれず、海に流れ込んでいる。タンクの隙間からも高い線量の水がしみ出し、やはり一部が海に達していることが発覚した。

 これを受け海外では、海洋汚染への懸念が五輪招致に影を落とす可能性があると繰り返し報じられている。安倍政権にとって、反応の厳しさは想像以上だったのではないか。

 東電だけでは汚染水問題に対応しきれない、と以前からいわれてきた。本来、五輪とは関係なくとうに手を打っておくべきだった。政府は一貫して危機意識を欠いていたといえよう。

 肝心の対策の中身は、対症療法の域を出ていない。いくら難題とはいえ、急ごしらえの印象を受ける。

 原子炉建屋の周囲の地下を凍土の「壁」で囲い、地下水の流入や流出を防ぐという。だが技術的な信頼性は未知数である。

 タンクの漏えい水対策も、果たして決め手となるのか。耐久性のあるタンクを新たに設置して古いタンクから水を移すというが、完了時期はみえない。

 これで国際社会が納得するかは甚だ疑問である。

 かねて汚染水対策は破綻寸前、という指摘もある。逃げようのない現実から目をそらさず、抜本的な対策を探るべきだ。そして、国内外に包み隠さず現状を説明する責任がある。

 五輪招致活動においても例外ではないだろう。安倍晋三首相はブエノスアイレスであるIOC総会に出席し、投票前にプレゼンテーションをする。何をどう語るのか注視したい。

 この際、対策が手詰まりに陥っていると率直に認め、国際社会に助けを求めることで不退転の決意をアピールしてはどうか。廃炉技術の研究開発については国際的な連携の動きがある。目の前の事故収束も、日本の姿勢次第で世界の英知をもっと集める余地があるはずだ。

 最も緊急を要する事態が一向に改善しないまま、安倍首相は原発輸出に向けたトップセールスに力を注ぎ、再稼働方針を前に進める。政府の人材も財源も無限ではない。注力する優先順位を誤っていないか。

 汚染水との気が遠くなるような闘いは、「東京五輪」の成否を問わず続く。日曜の朝の結果が、今後の政府の本気度を左右することがあってはならない。

(2013年9月4日朝刊掲載)

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