『潮流』 ウミガメと原発
13年9月9日
■論説委員 田原直樹
訪ねたことはない。でも貧しくも穏やかな人々が暮らす土地らしい。南シナ海に面したベトナムの漁村タイアン。近くの浜にはウミガメが産卵に来る。
出漁の準備をする漁民、家族で囲む魚や貝の料理、美容室での語らい…。
先日まで広島市内で開かれた小原一真さんの写真展「3・11 見えない風景」で見た。盛岡市出身の写真家は福島第1原発の事故現場で働く作業員らの顔を正面から撮っていた。聞き取った苦悩を書き添えて。
会場の一隅に、タイアン村の写真はあった。日本が原発を輸出する地。8年後に稼働予定という。
漁業のほか、村に産業はない。その点、原発が集中する福島県浜通りなどと相通じるものがある。
安定収入が得られる原発で働いてほしい―。漁師の父親は小学生の息子に望む。写真の解説にあった。
村長や古老は日本を訪れ、福島などの原発を視察している。3・11の半年前である。その後、何が起き、福島の住民がどうしているか。詳しく知らないのに違いない。
日本とベトナムが国交を樹立して今年で40年。両国の詩人による「ベトナム独立・自由・鎮魂詩集175篇」が出版された。
枯れ葉剤被害者の日である8月10日発行。ベトナム戦争を告発し、傷を慰め、悼む詩が多い。その中でルゥ・クアン・ヴーさんの詩に次の一節があった。
「フランスは賢く、日本国は豊か/アメリカは爆弾だらけで極悪だ」
その豊かな国が原発を造る。米国に原爆を落とされた国が、枯れ葉剤をまかれた国に。もっとほかにできることがあるだろうに。
鈴木比佐雄さんの作品は、私たちへの問いかけで結ばれる。
「海亀の未来を奪っていいのだろうか/タイアン村の暮らしを永遠に奪っていいのだろうか」
(2013年9月7日朝刊掲載)
訪ねたことはない。でも貧しくも穏やかな人々が暮らす土地らしい。南シナ海に面したベトナムの漁村タイアン。近くの浜にはウミガメが産卵に来る。
出漁の準備をする漁民、家族で囲む魚や貝の料理、美容室での語らい…。
先日まで広島市内で開かれた小原一真さんの写真展「3・11 見えない風景」で見た。盛岡市出身の写真家は福島第1原発の事故現場で働く作業員らの顔を正面から撮っていた。聞き取った苦悩を書き添えて。
会場の一隅に、タイアン村の写真はあった。日本が原発を輸出する地。8年後に稼働予定という。
漁業のほか、村に産業はない。その点、原発が集中する福島県浜通りなどと相通じるものがある。
安定収入が得られる原発で働いてほしい―。漁師の父親は小学生の息子に望む。写真の解説にあった。
村長や古老は日本を訪れ、福島などの原発を視察している。3・11の半年前である。その後、何が起き、福島の住民がどうしているか。詳しく知らないのに違いない。
日本とベトナムが国交を樹立して今年で40年。両国の詩人による「ベトナム独立・自由・鎮魂詩集175篇」が出版された。
枯れ葉剤被害者の日である8月10日発行。ベトナム戦争を告発し、傷を慰め、悼む詩が多い。その中でルゥ・クアン・ヴーさんの詩に次の一節があった。
「フランスは賢く、日本国は豊か/アメリカは爆弾だらけで極悪だ」
その豊かな国が原発を造る。米国に原爆を落とされた国が、枯れ葉剤をまかれた国に。もっとほかにできることがあるだろうに。
鈴木比佐雄さんの作品は、私たちへの問いかけで結ばれる。
「海亀の未来を奪っていいのだろうか/タイアン村の暮らしを永遠に奪っていいのだろうか」
(2013年9月7日朝刊掲載)