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社説・コラム

天風録 「ある経済人の遺言」

 戦地から生還し大手損害保険会社のトップに上り詰めた。経済同友会の終身幹事、品川正治さん。きのう訃報が届いた。異色の経済人。右膝に迫撃砲のかけらが刺さったまま、非戦を全国に説いて回った▲過酷な体験が突き動かした。赤紙一枚で従軍し、九死に一生を得る。俘虜(ふりょ)収容所で飢えと疫病に苦しみ、終戦の翌年に祖国の土を踏んだ。船内で新憲法草案を報じる新聞に目を見張る。戦争放棄―。仲間と感涙にむせんだ▲戦後日本の発展は憲法が支えた、という確信は人一倍あった。勇ましい言説には「自分で戦場に行って傷を負ってみろ」と手厳しい。極限を知る者だけが持つ説得力。もうじかに聞くことはできない▲平和と経済。品川さんには同一線上にあった。「平和憲法を持つ国にふさわしい経済」を問い続けた。この国は、庶民の生活と幸せを中心に置いているかと。権力や一部の富がすべてに優先するのが戦争の本質、という思いである▲武器輸出三原則を取り払い、日本の武器を外国に売らんとする動き。現実になりつつある。「紛争を戦争にしてはならない」。品川さんの遺言を、多くの政治家がわがこととして受け止めていればいいが。

(2013年9月7日朝刊掲載)

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