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社説・コラム

社説 G20とシリア 国際協調を貫くべきだ

 内戦状態のシリアで化学兵器が使われたとされる問題に、どう向き合うのか。ロシアで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会合は、米国による武力行使の是非をめぐって意見が激しく対立したまま終わった。国際社会の亀裂が露呈したといえる。

 世界経済のリスク回避が何よりのテーマだったが、雰囲気は一変した。米ロの直接協議も物別れだった。オバマ米大統領が種をまいた国際協調の流れが、台無しになりかねない状況だ。

 米国はアサド政権が化学兵器を使ったと断定し、関連施設へのミサイル攻撃を準備する。だが同盟国の英国が議会の反対で参戦を断念し、支持を明言したのもフランスなど少数である。

 G20では国際社会に広がる慎重論が浮き彫りになった格好だ。アサド政権に好意的なロシアや中国が真っ向から反対しただけではない。欧州連合(EU)も軍事力行使に否定的で、新興国ではインドやブラジルも米国支持に及び腰だ。国連の調査を待ち、まず安全保障理事会に諮れとの声が大勢だろう。

 こうした状況の背景には、イラク戦争のつけがあるのは疑いない。米国が開戦の根拠とした核開発や化学兵器開発は存在せず、開戦を支持した国に不信感をもたらした。加えてパワーバランスの多極化で「世界の警察官」を自任した米国の影響力が低下してきたこともあろう。

 オバマ氏は同じ道をたどろうというのか。一国主義をひた走ったブッシュ政権を批判し、政権の座に就いたはずである。

 そもそもアサド政権側が使ったという証拠が明確に示されたとは言い難い。さらにいえば限定的なミサイル攻撃で解決するとも思えない。一般市民に犠牲が出て内戦がさらに泥沼化する恐れもある。中東情勢の不安定化に結び付けば原油が高騰し、世界経済を直撃しかねない。

 米国世論で反対が強いのはイラクなどを踏まえた厭戦(えんせん)気分に加え、拙速な武力行使は得策ではないとの受け止めでもあろう。上院は軍事行動の限定で承認は得られるかもしれないが、野党多数の下院は見通せない。

 ここは潘基文(バンキムン)国連事務総長の言葉を重く受け止めるべきだ。現時点での軍事介入は国際法の根拠を欠くと明言し、G20の場でも平和解決を求めた。

 むろん安保理に舞台を移したとしても米ロ対立の構図は変わるまい。潘氏はシリア政府と反体制派、関係国が集まる会議を早急に開くことを表明した。その場で化学兵器の実態をただし、和平の道を探るのが当面の取るべき方法ではないか。

 米国批判を続けるロシアのプーチン大統領の姿勢も問われよう。G20議長国の立場を利用し、首脳間の不協和音をあえて際立たせた感もある。シリアに最も影響力を持つ国として内戦終結に責任を果たす立場にあることを忘れてもらっては困る。

 日本も難民支援などで役割を担いたい。なのに安倍晋三首相が途中で切り上げ、国際オリンピック委員会(IOC)総会に向かったのはどうだろう。東京五輪招致に熱心なのは分かるが、自らの手で平和貢献をアピールする機会だったはずだ。

 シリア問題に関心が薄いとみられても仕方ない。仮に米国が攻撃を強行した場合、日本が無批判に支持するなら国際社会の冷たい目にさらされるだろう。

(2013年9月7日朝刊掲載)

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