×

社説・コラム

社説 尖閣国有化1年 緊張緩和に知恵を絞れ

 日本政府が沖縄県の尖閣諸島を国有化して、きょうで1年になる。角突き合わせる日中両政府は、この間を冷静に振り返り、事態を収める方法を探る機会にしてもらいたい。

 それなのに、ここ数日、対立は厳しさを増しているようだ。中国軍機とみられる無人機が尖閣付近に飛来したのに続き、4月以来の隻数となる中国海警局の船舶が領海内に侵入した。

 いま一度、確認したいのは、安倍晋三首相自身が「戦略的互恵関係」とした日中関係の重要性である。東アジアの安定には両国の協調が欠かせないのは言うまでもあるまい。

 万が一にも軍事衝突に至ってはならない。日中両政府はやみくもに緊張を高めないよう、もっと知恵を絞るべきだ。

 その点で、安倍首相が今月、ロシアで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会合の場を利用し、立ち話とはいえ習近平国家主席と直接、対話したのは一歩前進といえる。安倍政権の発足後、日中の首脳が言葉を交わしたのは初めてだ。

 今後、安倍政権に求められるのは、対話を重ねるためにも、中国をことさら刺激しないことだ。歴史認識の問題には謙虚に向き合ってほしい。

 安倍政権は尖閣問題を念頭に離島奪還のための部隊の新設など自衛隊の強化を掲げる。こうした動きは日中両国の軍備拡張に拍車を掛ける。一方、中国は初の強襲揚陸艦の建造を進めていることが明らかになったばかりだ。

 菅義偉官房長官はきのう、尖閣の実効支配を強めるための公務員の常駐も「選択肢の一つだ」と述べた。この1年の教訓を忘れてはなるまい。

 尖閣の国有化を決めたのは、民主党政権の野田佳彦首相である。当時、東京都知事だった石原慎太郎氏の尖閣購入の表明が政府を動かした面は大きかろう。だが、国内で筋が通っているとしても、外国との関係では手法が稚拙であれば重大な問題に発展しかねない。

 むろん中国政府にも自制を促したい。この1年、繰り返してきた尖閣周辺への船舶や航空機の派遣を早急にやめるべきだ。

 現場で不測の事態が起きる懸念は否めない。ことし1月には、尖閣沖で中国海軍のフリゲート艦が海上自衛隊の護衛艦に射撃管制用レーダーを照射する事態が発生した。少なくとも、日中の防衛当局間のホットラインの設置は不可欠ではないか。

 3月に発足した習体制が、中国国内で弱腰との批判を避けるため、日本に強く接してきた面はあろう。だが、ここにきて関係改善を模索する動きもみせている。

 安倍政権との首脳会談や外相会談は拒む方針は変えていないものの、日本の国会議員や民間団体との交流を活発化させる意向という。この点については、日本側にも異存はないだろう。

 両国の経済的なつながりも、切り離すことはできない。これだけ関係が冷え込んでいても、ことし上半期の日本からの輸出額は、米国に続き中国が2位を占めた。多くの中国地方の企業も中国に進出している。

 2020年の東京五輪の開催が決まったばかりだ。平和の祭典を成功させるためには、日中間でスポーツや文化の民間交流も促進させたい。

(2013年9月11日朝刊掲載)

年別アーカイブ