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社説・コラム

社説 福島の除染 住民の思いに向き合え

 東日本大震災から2年半が過ぎた。環境省はおととい、福島第1原発周辺の11市町村で行う国直轄の除染作業について新たな方針を公表した。

 未曽有の原子力災害はいまだ収束には程遠い。このところ汚染水の漏えいが焦点となっているが、除染の問題も解決はいまだ道半ばと言うほかない。

 住民の古里への帰還を左右する。可能な限り急ぐべきだ。なのに現状はあまりに遅すぎる。

 従来の工程表は昨年1月、民主党政権がまとめた。本年度中に全て終えるはずだったが、計画通りなのは完了した田村市を含む1市3町だけである。

 このため計画を作り直し、残る7市町村の除染は期間を延長して取り組むことにした。再除染や森林除染の対象拡大も盛り込んだ。

 終了目標の時期は示していない。このため自治体は、除染と連動する復興計画の見直しを迫られる可能性がある。帰郷を願う住民も、さらに振り回される思いではないか。

 大幅な遅れは、汚染した表土や草木を取り除いた後に仮置きする場が十分確保できていないからだという。中間貯蔵施設の場所が決まっていないため、結局は各地に長期間放置されかねないと住民の懸念は強まる。

 足かけ2年という当初の目標設定自体が非現実的だったのだろう。仕切り直した政府は、除染作業を加速させる環境づくりに注力しなければなるまい。

 ところが地元では環境省に対する不満が募っているという。避難生活はいつまで続くのか、除染すれば住めるのか、中間貯蔵施設は―。生活再建を見据えた説明は不足しているようだ。

 その不安の根底にあるのは、除染しても帰郷できる保証はない、という点に尽きるだろう。

 汚染度の高い区域を確実に除染する技術は、まだ確立していない。除染を終えた地域でも、国が掲げる年間追加被曝(ひばく)線量1ミリシーベルトを下回らない場所が多い。せっかく洗い流しても、未除染の地域を伝った雨水が流れ込む可能性が常にある。

 しかも除染費用は5兆円以上の巨額が見込まれる。これまで国は、仮負担分を東京電力に請求しているが、支払いは滞っている。今後も東電に余力があるとは思えない。

 とすれば汚染水問題のように国の関与を強めることも、やむを得ない面があろう。むろん、納税者である国民への説明が不可欠となる。

 さらに政府が心を砕くべきは、個々の被災者の要望にきめ細かく応えることだろう。

 帰還を励みに仮設住宅で踏ん張っている人は少なくない。一方、古里に戻ることは諦め、新天地に定住すると決意した人も増えてきたようだ。とりわけ子どもを持つ親ならば、原発周辺での再定住には二の足を踏む人がいても無理はない。

 11市町村は現在、除染後に希望者全員の「一日も早い帰宅」を目指す区域と、「5年以内に戻るのは難しい」区域などに線引きされている。だが、住民の切実な思いにまで一様に線引きすることは到底できない。

 希望者の一斉帰還に向け、政府が引き続き力を尽くすのは当然だろう。同時に、住民の苦渋の選択は尊重されるべきだ。どこまで被災者に寄り添えるか。そこが問われている。

(2013年9月12日朝刊掲載)

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