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社説・コラム

天風録 「うつろな言葉」

 新鮮な魚介を食べさせる店に列ができていた。福島県いわき市。ただし、魚は九州や日本海から運んできたとのこと。沿岸の漁は試験操業を除いて自粛してきた。一見して紺ぺきの海なのに。漁師たちの心中はいかばかりか▲追い打ちを掛けたのが、原発の汚染水漏れ。1日からの試験操業さえ延期になった。「みんな腹ん中、煮えくり返ってる。でも、怒ってても仕方ないから」。東京電力や国の対応を待つだけだと、漏らす言葉が切ない▲かわはどうしてやすまないの/それはね うみのかあさんがかわのかえりをまっているのよ(谷川俊太郎「川」)。母なる海が汚されたなら、川には帰る場所はあるだろうか▲同じ建物で「震災を忘れまい」と呼び掛ける写真展が開かれていた。市街に流れ込む黒い塊、建屋が吹き飛んだ原発-。目頭を押さえる人がいた。子らはメッセージをつづっていた。「キラキラとしたおだやかな海が…」▲事故から2年半。汚染水漏れは規模さえ分かっていない。なのに「状況はコントロールされている」と、国際舞台で口にしてしまう。そんな、うつろな言葉より、こちらを記憶に刻みたい。キラキラを取り戻そうとする子らの言の葉を。

(2013年9月13日朝刊掲載)

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