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社説・コラム

『記者縦横』 核廃絶 問われる発信力

■報道部 田中美千子

 ヒロシマの訴えは、確かに世界に届いている。そんな思いを強くするニュースだった。

 5日、米ニューヨークの国連本部。イェレミッチ総会議長が演壇に立った。8月6日の「原爆の日」に広島を訪れた体験を紹介し、訴えた。「核戦力を容認する人たちには広島へ行き、原爆資料館を見てもらおう」。総会議長は事務総長と並ぶ国連の重要ポスト。力強い言葉は、各国代表の胸に確かに響いたはずだ。

 イェレミッチ氏はこの夏、平和記念式典に参列するため、広島を初めて訪れた。原爆資料館を見学後、インタビューに応じた。「人生観が変わった。核軍縮への思いを新たにした」。熱っぽく語る姿が印象的だった。被爆者の体験証言にも熱心に聞き入った。

 イェレミッチ氏へのインタビューでは、被爆国日本の「矛盾」についても意見を求めた。核兵器廃絶を掲げる一方、安全保障を米国の提供する「核の傘」に委ねるという現実についてだ。

 「国を守る一つの手法かもしれない。でも、核兵器がこの世に存在する限り、人類滅亡の危機は消えない」。彼は強く言った。核の傘に頼らない安全保障をいかに確立するか―。被爆国は大きな宿題を課されている。

 被爆68年の夏が過ぎ、被爆者の平均年齢は78歳を超えた。体験をどう引き継ぎ、伝えていくのか。「被爆地の発言は重い。核軍縮に貢献してほしい」とイェレミッチ氏。あらためてヒロシマの発信力が試されている。

(2013年9月16日朝刊掲載)

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