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社説・コラム

天風録 「竹と憲法」

 大河ドラマ「八重の桜」が佳境に入った。この日曜は洋装で堂々、夫の新島襄(じょう)をジョーと呼び捨てに。同志社塾生たちは目を丸くしていた。だがハイカラな八重が襄亡き後、打ち込んだのは茶の湯だったという▲「たのみつる竹は深雪に埋もれて世のうきふしをたれとかたらむ」。最愛の夫を竹になぞらえて不在を悲しみ、自らも宗竹と号した。終生、彼とともにあろうとした心根か。裏千家茶道資料館、筒井紘一さんの著書による▲作家山本有三に「竹」という随想集がある。この夏、65年ぶりに「日本国憲法の初心」と改題して復刻された。有三は翻訳調だった新憲法の口語文案を進言、保守リベラルとして参議院で論陣を張る▲随想に政界話はない。代わりに「私は昔から竹が好きです」と語る。風雪はいつかやむと信じ、自力でぴいんと元に戻るから。ぽきんと折れるような、ふがいないまねはしないから。桜に象徴された時代への異議なのか▲きのう、集団的自衛権行使容認に向けた首相の諮問機関が議論を再開した。「積極的平和主義」が錦の御旗のよう。八重はどう思うだろう。竹の「初心」は今も青々として変わらないぞ。有三ならそう言うかも。

(2013年9月18日朝刊掲載)

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