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社説・コラム

天風録 「神話のマテ茶」

 パラグアイの神話が語る。森の中で孤立して生きる家族のために、お月さまが種をまいて慰めたと。やがて育ったのは背の低いマテの木。葉や枝に湯を注ぐマテ茶は、南米の多くの国で親しまれてきた▲現地では「飲むサラダ」と呼ぶそうだ。日本でも飲料メーカーがペットボトルで売り出した。口に含むと香ばしい風味が広がる。隣国ブラジルではサッカーW杯や五輪が控え、ラテンの茶はいっそう注目度が上がるだろう▲古くから中東にも輸出され、とりわけシリアの人々は愛飲してきた。遠い大陸へとはるばる海を渡った移民が持ち帰ったのが始まりという。熱々の湯とともに、砂糖を加えるのが流儀らしい▲いまは口にすらできない人も多いに違いない。2年半の内戦で11万人余りが犠牲になった。難民は200万人を超えたとも。米国の攻撃は遠のいたようだが、化学兵器を廃棄する険しい道のりはこれから▲神話でお月さまは「マテとは、友人の輪を大切にせよという意味だ」と説く。その教えを受け止め、家族は周囲に茶を振る舞って友情を取り戻したという。きょうは十五夜。シリアの夜空にもかかる丸い月が、和平を取り持ってくれないものか。

(2013年9月19日朝刊掲載)

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