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社説・コラム

社説 安保法制懇 結論ありきでいいのか

 戦後日本が歩んできた道筋を大転換しようというのだろう。

 安倍晋三首相が設けた安全保障に関する有識者懇談会(安保法制懇)がおととい、7カ月ぶりに会合を開いた。集団的自衛権の行使解禁に向け、憲法解釈を見直す方針を確認した。

 首相の思いは法制懇でのあいさつに集約されるだろう。「憲法制定以来の変化を直視し、新しい時代にふさわしい憲法解釈の在り方を検討していく上での基礎となることを期待したい」

 その言葉通り、法制懇は年内にも報告書をまとめ、安倍首相に提出する。その上で政府が解釈変更の検討に入る構えだ。

 これでは、なし崩し的な解釈改憲に等しいというほかない。最高法規をいとも軽々しく扱っていいものだろうか。

 集団的自衛権とは、自国と密接な関係にある他国が攻撃された場合、自国への攻撃とみなして実力で阻止する権利をいう。国連憲章も「主権国の固有の権利」と定義している。

 だが、わが国の政権は代々、憲法9条の制約によって行使できない、との見解を受け継いできた。国民主権や基本的人権の尊重などと並び、戦争の放棄と戦力の不保持が現行憲法の根幹であることの証左でもあろう。

 安保法制懇での議論は、安倍首相にとって「再チャレンジ」でもある。第1次政権で設置され、2008年に集団的自衛権の行使に道を開く提言をまとめた。その前に政権は退陣し、宙に浮いた格好となった。

 あらためて議論を始めたのは安倍首相が政権に返り咲いた後のことし2月である。メンバー14人の顔ぶれは、首相と近しい大学教授や企業幹部らほぼ変わらない。再び積極的な内容の報告書を編むのは確実だろう。

 座長代理の北岡伸一国際大学長は、集団的自衛権の行使を全面的に容認すべきだと明言している。しかも、サイバー攻撃や無差別テロに対する自衛隊の活動範囲について、前回よりも踏み込む方向という。

 少数の人間が政権の意をくんで新たな憲法解釈を打ち出す。それを「お墨付き」として政権が検討を進める。そうした構図には違和感を禁じ得ない。

 政権が代われば憲法解釈も変わるとすれば、何のための最高法規か分からなくなる。どうしてもというならば、国民に憲法改正を問うのが筋だろう。

 各界各層の多様な意見が議論の出発点となるべきである。その意味で気掛かりは、自民党内の慎重派に以前ほどの存在感が感じられないことだ。

 一方、公明党の山口那津男代表は「国民の理解を得ることが大事で、時間も必要だ」とくぎを刺す。連立政権のブレーキ役としての役割が問われよう。

 安保法制懇の報告書はあえてタカ派色を押し出す、との見方がある。それを受けて安倍政権が多少抑制的な姿勢を見せることで、世論の抵抗感を和らげようという戦略である。

 よもや安倍政権としても、そんな不誠実なシナリオで国民がけむに巻かれるとまでは考えていないだろう。

 それよりも、今なぜ憲法解釈の変更なのか、国民が納得できるだけの説明を求めたい。

 さて国会は何をしているのだろう。来月の臨時会まで長い夏休みが続く。本来なら真っ先に声を上げるべきではないか。

(2013年9月19日朝刊掲載)

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