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社説・コラム

天風録 「ズックぐつ」

 「エビ茶のオーバー、濃紺のコールテンパンタロンにズックぐつ」。35年前の本紙夕刊が、被爆地を初めて訪れた米国の女子大生を子細に描写している。髪は少し長めで表情にあどけなさが残る、とも▲次期駐日大使と目されるキャロライン・ケネディさんの20歳のひとこま。今でいうスニーカー履きで原爆資料館に足を踏み入れた。一緒に訪れた叔父の上院議員らから一人遅れ、展示に見入ったという▲わずか6時間の広島滞在。つきまとう記者を「私、いろんな事情から質問に応じられないの」と笑顔でかわした。それが今になって上院公聴会で「心を大きく揺さぶられた」と当時の心境を明かしている。体のいい外交辞令なのだろうか▲いぶかりながらスクラップを探すと朝刊に別の記事が。資料館の後は病院で被爆者を見舞い、ケロイドを目の当たりにして顔を引きつらせている。なるほど衝撃は今も忘れがたいのだと信じたい▲上院が承認すれば来月にも着任しそう。じっくり再訪し、今度こそ原爆の投下責任と核のない世界への展望について、はぐらかさず率直に語ってもらいたい。もちろんオバマ大統領も誘ってみて。まずは軽装で、構えずにと。

(2013年9月21日朝刊掲載)

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