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社説・コラム

社説 福島の廃炉 東電 体制見直し不可欠

 2020年の東京五輪が決まった後の会見のことだ。安倍晋三首相は汚染水漏れへの対応だけでなく、もう一つ重要な表明をしていた。原発比率の引き下げである。

 その姿勢を印象付けようというのだろう。首相はおととい、東京電力の福島第1原発を視察し、5、6号機を廃炉にするよう要請した。

 メルトダウン(炉心溶融)するなどした1~4号機は、東電が既に国へ届け出て廃炉が決まっている。同じ敷地内にある5、6号機の廃炉も確実視されてきたが、東電は態度を曖昧にしてきた。一国の最高責任者が廃炉を口にした意味は重い。

 安倍政権が福島県内の原発の廃炉を主導するのであれば、望ましいことである。多くの県民が願う県内の原発ゼロを実現する一歩にしてほしい。

 その点で欠かせないのが、福島第1原発の南約11キロ、楢葉町と富岡町にまたがる第2原発の廃炉である。東日本大震災では津波の被害を受け、現在は冷温停止の状態となっている。

 福島県は東電や国に対し、第2原発の4基を含めて県内にある原発10基全ての廃炉を求めている。原発事故に苦しみ続ける県民感情からすれば当然といえるだろう。

 だが東電は第2原発についても廃炉を決めていない。安倍政権は第1原発の5、6号機にとどまらず、第2原発の廃炉も要請すべきだ。

 東電が廃炉を進められないのは、経営への影響が大きいという事情もあろう。従来の会計ルールでは、電力会社が原発を廃炉にする際、損失を一括して計上する必要があった。

 そのため政府は年内をめどに廃炉に伴う損失を複数の年度にわたって計上できるようにする考えだ。首相から廃炉の要請を受けた東電が、年内に判断すると答えたのも会計ルールの変更を意識してのことと思われる。東電の負担が軽減されるのは確かだろう。

 とはいえ、汚染水の問題一つまともに対応できない東電が、今のままの体制で廃炉をきちんと手掛けることができるのか。甚だ疑わしい。

 政府が昨年7月、東電に公的資金1兆円を注入して実質国有化した際に策定した再建計画も無理がある。福島第1原発などの廃炉費用を賄うため、新潟県の柏崎刈羽原発の再稼働を急ぐ計画になっているが、違和感は拭えない。

 首相の要請に、東電は既に引き当てている廃炉費用に加え、1兆円を新たに確保するという。コスト削減で費用を捻出する方針だが、めどは立っていない。東電が自らの経営事情を理由に、廃炉を遅らせることがあってはなるまい。

 安倍政権が福島県内の原発の廃炉に本気で取り組むのであれば、東電の体制そのものを見直す必要がある。例えば、原発事故の処理や廃炉を担う部門と、電力を供給する部門に会社を分ける案などが浮上している。

 首相が表明した通り原発比率を引き下げるには、まず全国の老朽化した原発から廃炉を着実に進めることが不可欠である。地元の自治体や住民から再稼働の同意が得られない原発も廃炉の候補になるだろう。福島県での脱原発をモデルケースにしてもらいたい。

(2013年9月21日朝刊掲載)

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