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社説・コラム

社説 ドイツ総選挙と脱原発 成長との両立 どう図る

 脱原発を目指す政策が変わることはなさそうである。ドイツの総選挙でメルケル首相の率いる保守与党、キリスト教民主・社会同盟が勝利した。首相の3期目続投は確実となった。

 ドイツのエネルギー政策は、日本で起きた福島第1原発の事故を機に転換している。2022年までに国内の原発17基を全て廃止する計画である。

 今回の総選挙でも与野党そろって、計画通りの原発全廃を訴えた。脱原発に向かおうとするドイツ国民の意志はそれほど固いという証左だろう。だが経済成長と両立させる道はまだ、見えているとはいえない。

 もともとドイツでは脱原発の機運が高かった。27年前に旧ソ連で起きたチェルノブイリ原発の爆発で放射性物質が飛来したことが大きい。

 社会民主党を中核とした連立政権は02年、脱原発法を成立させる。稼働中の原発の発電量が法で定められた限度を超える22年ごろまでに全廃するとした。

 その方針を先送りしたのが、メルケル首相だった。2期目を目指した4年前の総選挙。産業界の意向を受け原発の稼働延長を主張し、支持を得た。

 その態度を一変させたのが福島第1原発の事故である。従来にも増して強まり、広がった脱原発の国内世論にあらがえなくなったのだろう。

 ことし8月の世論調査でも、8割余りが脱原発を支持している。メルケル首相も選挙前の討論会で、福島の汚染水問題を念頭に「脱原発は性急ではなく、正しい決定だった」とした。

 ただ総論はともかく、各論では与野党の間に主張の開きが否めない。

 総選挙では、電気料金の抑制策が争点の一つになった。

 再生可能エネルギーを原発の代替電源とするため、ドイツは2000年から固定価格での買い取りを電力会社に義務付けている。全電源に占める割合は2割に上るものの、コストの跳ね返りで電気料金は1・8倍となった。一般家庭の料金は平均で月約1万1千円という。

 このまま再生エネの比率が高まれば、一層の料金値上がりが見込まれる。与党は、買い取り価格を大幅に引き下げる制度見直しを訴えた。

 これに対し、野党の一部は優遇を受けてきた企業の負担増を求めている。ドイツの大企業が脱原発にそれほど反発を見せていないのは、国際競争力の維持を目的とした電気料金の減免措置があるからとされる。

 もう一つは二酸化炭素(CO2)の問題である。原発に代わる電源として、メルケル政権は石炭を燃料とする火力発電所も増設している。このため欧州各国がCO2排出量を減らす中、ドイツでは増える傾向にある。

 こうした状況を踏まえ、脱石炭を掲げる野党もある。しかし、電気料金アップに直結する再生エネを急速に伸ばすのは難しく、脱石炭は容易ではないと言わざるを得ない。

 難題と向き合いながらドイツは脱原発に歩を進め、経済も堅調である。むろん隣国から電気を購入できるという大陸ならではの利点も見逃せない。

 ただ再生エネが全電源の1~2%にすぎない日本が学ぶべき点は少なくあるまい。ドイツの歩んできた道、今後の政策をしっかりと参考にしたい。

(2013年9月24日朝刊掲載)

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