×

社説・コラム

社説 原発事故の「収束」宣言 先見えぬのになぜ急ぐ

 野田佳彦首相はきのう、東京電力福島第1原発の事故の「収束」を宣言した。原子炉が「冷温停止状態」になったためという。

 だが原子炉は依然として予断を許さない状況である。なぜ「事故そのものは収束した」と言い切れるのだろうか。

 これでは避難を余儀なくされている住民も到底、納得できまい。

 政府は冷温停止状態を、原子炉圧力容器の底の温度が100度以下で、放射性物質の放出が大幅に抑えられている―と定義する。確かに事故直後に比べれば、原子炉は少しは安定してきたようだ。

 とはいえ1号機は核燃料のほぼ全て、2、3号機は6割程度が圧力容器を貫通し、外側の格納容器に溶け落ちたと推定されている。メルトダウン(炉心溶融)だ。

 これらの燃料はいまだにくすぶっているとみられ、冷却を止めるわけにはいかない状況にある。

 しかも高い放射線量に阻まれ、1~3号機の原子炉内部の詳細な様子は不明である。4号機の使用済み核燃料も撤去されていない。1号機は建屋カバーが設置されたものの、爆発した3、4号機の建屋はむき出しのままだ。

 地中部分の汚染状況もさっぱり分かっていない。

 冷温停止状態と宣言することで国民に無用の心配をさせまいという政府の判断は分からぬわけでもない。しかし、そうだとしても「事故の収束」とするのは早計にすぎないか。

 放射性物質の大気への放出は随分減ったとはいえ、今もなおわずかに漏れ続けている。

 放射性物質を除去する処理を施して循環させている冷却水にも課題が多い。建物の壁がひび割れ、1日数百トンの地下水が流入しているからだ。

 汚染水の流出事故も相次ぐ。今月に入っても処理装置から放射性ストロンチウムを含む水が海に漏れ出した。

 処理した水を海洋に放出する東電の計画に、漁業関係者が強く反発するのも当然だ。敷地内のタンクにたまり続けているが、来年前半には限界を迎えるという。

 放射性物質を完全に閉じ込められず、今後もその保障ができない状況にあることは、疑いようもないだろう。

 ここで事故への順調な対応を内外にアピールすることにより、食品などの風評被害を抑える効果はありそうだ。一方、安心感を醸成することで停止中の他の原発の再稼働につなぐ目的もあるとすれば、本末転倒というほかない。

 今回の宣言がただちに、避難している住民の帰郷につながるわけでもない。政府は年内に避難区域再編の考え方をまとめるようだが、放射線量のきめ細かい測定や、徹底した除染が前提になることは言うまでもない。

 原子炉から燃料を取り出すにもあと20年程度はかかるとされる。放射性物質を封じ込め、廃炉を達成してはじめて、事故は完全に収束したと言えるのではないか。

(2011年12月17日朝刊掲載)

年別アーカイブ