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社説・コラム

社説 国民投票法 付則見直し 小手先では

 憲法改正が国会でいつ発議されてもいいように、最低限の体制を整えておきたいということなのだろう。改憲の手続きを定めた国民投票法の改正案を、自民、公明両党が来月召集の臨時国会に提出するという。

 2010年5月に施行された現行法の本則は、投票できる国民の年齢を18歳以上と定めている。ただ本則を補う付則があり、法施行までに民法の成人年齢や公選法の選挙権年齢も同じ水準に下げるとしていた。

 これらの年齢の引き下げはいまだに実現できておらず、現在は違法状態といえる。改正案はとりあえず邪魔な付則を削除し、国民投票の年齢だけを18歳以上に確定してしまおうという狙いのようだ。

 だが重要な論点を先送りにする小手先の対応は本末転倒ではないか。積み残しになっている問題もしっかり議論しなければならない。

 国民投票法が成立したのは、安倍晋三首相が前回、政権を担った07年5月である。国会で審議する過程では、いくつかの大きな論点が浮かび上がった。

 まず投票年齢である。当初、自民党は20歳以上と主張し、民主党が18歳以上と訴えていた。与野党が協議した結果、自民が妥協した形だ。背景には、欧米の多くの国が18歳以上を「成人」としていることがあった。

 国民投票の年齢と、成人年齢や選挙権年齢の整合性が求められるのも確かだ。これらの年齢の引き下げが法律の付則に盛り込まれたのは理解できる。

 しかし成人年齢は飲酒や喫煙とも関係するため、引き下げに慎重な意見が根強い。安倍首相が早期に退陣したこともあり、政府、与野党内とも論議が深まらなかった。過去の経緯を踏まえれば、再登板した首相は成人年齢や選挙権年齢をどうするのか、一緒に考えを示すべきだ。

 さらに国民投票法を改正するなら、本則もいまのままでよいのか、総点検する必要があるだろう。論点の一つが、一定の投票率に達しない場合に国民投票を無効とする最低投票率制度の是非である。現行法には盛り込まれていない。

 たとえ国民投票で過半数が賛成したとしても投票率が低ければ、結果的に全体のごく少ない割合の意思表示で改憲が決まることになる。

 むろん棄権も有権者の意思という見方はあろう。ただ、国の将来を左右する重い選択をする際に、果たしてそれでよいのかどうか。いま一度、考えることが不可欠である。

 もう一つの論点は、メディア規制の是非である。現行法では、国民投票の実施日の2週間前から賛否を呼び掛けるテレビCMは禁止されている。

 民放連は「国民の関心が高まる時期に広告活動を禁止するのは反対」との立場だ。規制がないインターネットとの整合性が取れていないとの指摘もある。規制の必要性を含め、議論し直してもよいのではなかろうか。

 自民党は昨年4月に改憲草案を作成し、安倍首相は憲法改正を目指す。時代と社会が変化する中、憲法を全く変えてはならないというつもりはない。

 ただし、そのための手続きは国民の納得が得られたものでなければならない。この際、国民投票法に残された問題はないのか、見直す機会にしたい。

(2013年9月27日朝刊掲載)

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