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社説・コラム

社説 原発再稼働審査 地元の責務も問われる

 福島第1原発の汚染水問題が収束していないことを思えば、違和感は拭えない。きのう東京電力が原子力規制委員会に、新潟県の柏崎刈羽原発を再稼働するための安全審査を申請した。

 再稼働に前のめりな東電の姿勢を「地元軽視」と反発していた新潟県の泉田裕彦知事が、申請自体は容認する方針に転じたためだ。県の要請に応じて東電が安全対策の強化を打ち出したこともあり、やむを得ないと判断したようだ。

 裏返せば、知事が厳しく迫らない限り、東電は対策を強めなかったかもしれない。原発を抱える他の自治体にとっても、一連の経過は参考になろう。

 知事が再稼働に慎重なのは、原発の新規制基準が施行された7月、東電が地元の了解なしに安全審査を申請する方針を公表したことが大きかった。

 柏崎刈羽原発そのものへの不信感もありそうだ。6年前の新潟県中越沖地震では、屋外変圧器で火災が起きた。揺れの強さは設計時の想定を上回り、追加の耐震工事を余儀なくされた。

 福島第1原発と同じ「沸騰水型」の原発であることも無視できない。敷地内には活断層の存在が疑われている。

 こうした懸念を踏まえ、新潟県が原発再稼働の申請前に安全対策の強化を求めたのは理解できよう。東電は事故時に放射性物質を薄めて排出するフィルター付きベント設備を追加することを決めた。

 さらに、地元の了解なしにはベント設備を使用しないと申請書に明記するとした。地元との協議が不十分と判断した場合は再稼働の手続きを白紙に戻す、とする県の意向も受け入れた。

 福島の事故を振り返るまでもなく、安全を第一に考える地元自治体の姿勢は当然だろう。それは原子力規制委の審査への不安と捉えることもできよう。

 原発の地元では「規制委の審査はそもそも原子炉の安全が対象であって、地域住民の安全とは必ずしも一致しない」との声がある。

 現在の枠組みでは、電力会社が規制委に安全審査を申請する際、地元自治体の了承は必要とされない。一方、自治体は審査終了後、再稼働に同意するか否かの判断を求められる。

 住民の安全を預かる自治体として、規制委の判断を追認するだけでは済むまい。再稼働の申請前にも、電力会社にさまざまな要望や注文ができる仕組みが必要ではないか。

 そこで忘れてならないのは、今や原発の「地元」は広がったことだ。福島の事故後に防災対策の重点地域とされた原発30キロ圏内の市町村が、立地自治体並みの発言権を求め、電力会社に安全協定の締結を申し入れるケースが増えている。

 電力会社は一部で応えているようだが、立地自治体並みの協定内容にはなっていない。原発の再稼働が難しくなるといった理由であれば、認められまい。電力会社はもっと積極的に協力すべきではないか。

 時同じくして、中国電力も島根原発2号機(松江市)の再稼働を年内に申請する見通しであることが分かった。完成間近の3号機についても申請の準備を進めている。

 住民の安全を守る―。島根県や松江市をはじめとする自治体が、その責務を果たすときだ。

(2013年9月28日朝刊掲載)

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