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社説・コラム

社説 シリア化学兵器全廃決議 内戦収束の弾みにせよ

 シリア内戦の収束へ、かすかな光が見えてきた。国連安全保障理事会はアサド政権に化学兵器全廃を義務付け、違反した場合の制裁を警告する決議案を全会一致で採択した。

 オランダ・ハーグの化学兵器禁止機関(OPCW)も、来年半ばまでの全廃を柱にした廃棄計画を決定した。米国による軍事介入の動きから一転、流れが変わる。米ロの枠組み合意から2週間足らずの安保理決議だ。

 常任理事国に外交解決への期待感が漂うのはもっともだろう。ロシアの外交の勝利、軍事介入できなかった米国の威信低下という見方もできよう。

 だが、ひとまずは各国がシリアの人道の危機を直視した結果と受け止めたい。米国とて国内には厭戦(えんせん)ムードが広がり、軍事行動を選べばオバマ大統領にとっても代償は大きかったはずだ。内戦がさらに泥沼化し、より多くの市民が巻き添えになった可能性は否めない。

 化学兵器は無差別、広範囲に人を殺傷し、生存者も後遺症によって苦しめる。シリアはこれまで化学兵器禁止条約(CWC)に加盟していなかったが、中東では有数の保有国である。

 8月には首都ダマスカス近郊の住宅街で実際に使われたとみられ、国連調査団は猛毒のサリンである証拠を得たと報告している。悲しいことだが、おびただしい犠牲者が出て初めて、大国も事態に気付いたのか。

 しかし、今後のOPCWの査察には課題が山積している。

 まず内戦下での化学兵器の国際管理は例がない。査察官や兵器の移送の際の安全をどう確保するか。ロシアは護衛のための兵力派遣を準備している。

 廃棄までの資金や施設・技術の裏付けはどうするのか。すべての化学兵器の安全な処理には数千億円かかるという。国際社会の支援が必要になろう。

 わが国はCWCに基づき、中国で旧日本軍の遺棄弾の廃棄処理事業に取り組んでいる。地下鉄サリン事件被害者のケアを通じた医療分野の蓄積もあり、非軍事の貢献が可能ではないか。

 一方、国連調査団は化学兵器使用疑惑で、攻撃した側がアサド政権と名指ししていない。首謀者は「人道に対する罪」で責任追及されてしかるべきだが、どう裁かれるかは見通せない。

 米国の軍事介入が回避されたため、政権側の通常兵器は温存されることになろう。だが、安保理決議は化学兵器に代わって通常兵器の使用を容認するという意味ではないはずだ。

 決議後に空爆や砲撃を強めるようなことがあれば許されない。反政権側も戦闘行為を停止すべきである。国連の調査委員会は政権側、反政権側の双方による重大な人権侵害が続いていると報告している。

 シリアの大学で政治学を学ぶ学生は「化学兵器が全廃されるなら、この国の危機を平和的に解決する最初のステップになるかもしれない」と語っている。

 決議は双方が出席する和平会議の開催も求めている。何としても成功させるべきだ。即時停戦・国民和解の暫定政府への移行しか解決の道はないだろう。

 また決議は国連憲章7章に基づき、履行違反に制裁を科すとした。措置の内容はあらためて決議するが、経済制裁など非軍事手段で武力行使の動きに圧力をかけ続けなければなるまい。

(2013年9月30日朝刊掲載)

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