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社説・コラム

社説 温暖化報告書 地球守る意識の共有を

 世界の研究者たちが発する警告をしっかり受け止めなければなるまい。地球の温暖化について、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がまとめた第5次評価報告書のことだ。

 IPCCは、国連が25年前に設けた国際組織である。温暖化対策に反映するため、地球規模の気候変化に関係する研究の成果を各国の政策決定者に伝える役割を担う。

 最新の分析データを盛り込んだ報告書は、温暖化の分野では最も信頼できる科学的な知見とされる。6年ぶりの改定となる今回は、これまでに比べていっそう強い危機感がうかがえる。

 温暖化を抑制するには、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガス排出量の大幅な削減が欠かせないと報告書は断じている。国際社会はその方策を見つけ出さなければならない。

 この15年間、気温上昇のペースが以前より鈍っている現象が注目されている。こうした状況を踏まえ、温暖化とCO2排出量の関係性を疑問視する見方が一部にあった。

 今回の報告書は近年の現象についての新見解を示した。深海の水温が上がっている観測結果から、大気中の熱を深海が吸収しているとし、長期的な温暖化の傾向は変わらないとした。説得力を持った根拠といえるのではないか。

 今世紀末までの予測については、四つのパターンを明らかにした。気温上昇の幅は最善のシナリオで2度未満に抑えられるものの、最悪ならば4・8度に達し、海面の水位は82センチも上がる。環境省によると、水位が65センチ上昇すれば、日本の砂浜の8割が消えるという。

 報告書は、温暖化が進めば各国で猛暑や豪雨などの異常気象がさらに頻繁になるとも予測している。国際社会は何としても最善のシナリオを目指さなければならない。

 IPCCの前回の報告書を受け、各国は4年前、産業革命前からの気温上昇を2度以内に抑える目標で合意した。それには世界全体のCO2排出量を2050年までに1990年比で50%以上の削減が必要とされる。

 目標を達成するため、各国は2020年に始める国際的な法的枠組みを15年末までに合意しようと交渉を進めている。しかし容易ではなさそうだ。

 CO2排出量を減らそうと積極的に取り組んでいる欧州の先進国と、経済成長を優先させたい中国やインドなど新興国の間にある溝は大きい。先進国の中でも、米国の国民1人当たりの排出量は世界で最も多い。

 これまで通りの議論を各国が続けていたのでは、温暖化を抑える処方箋は見つかるまい。世界全体としても成長一辺倒の社会から成熟社会へ発想の転換が求められよう。そのためには、先進国が率先して見本を示すだけではなく、新興国や途上国へ資金、技術の両面で支援する必要がある。

 日本は福島第1原発の事故後、新たなCO2排出量の削減目標を検討している。原発に頼らず、省エネと自然エネルギーの普及により排出量を減らす新モデルを構築したいところだ。

 温暖化が及ぼす影響に国境がないのは言うまでもなかろう。地球の環境を持続可能な状態として守る。その意識を各国で共有することが何より不可欠だ。

(2013年10月3日朝刊掲載)

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