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社説・コラム

社説 空中給油機と岩国 移転具体化 順番が違う

 きのう開かれた安全保障協議委員会(2プラス2)の意味は重い。日米防衛協力の指針(ガイドライン)の再改定の着手を合意したばかりではない。米海兵隊岩国基地(岩国市)への空中給油機移転が、再びクローズアップされたことも地元にとっては気掛かりだろう。

 現在は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に所属する12機である。移転への協議を加速することが確認された。「2014年度中に」と明示する見通しだったが、さすがに地元に配慮したのか時期の合意だけは見合わせたようだ。

 本来なら在日米軍再編計画の中で、普天間飛行場の返還・移設とも密接に絡む懸案である。そちらが手詰まり状態なのに、先行して前に進めようとする狙いはどこにあるのか。単に沖縄の負担を和らげるための小手先の戦術なら順番が違う。

 飛行中の戦闘機に燃料をつぐ「空のガソリンスタンド」空中給油機。戦闘機の行動範囲は飛躍的に広がる。いわば米軍の世界戦略の一翼を担う。

 岩国への部隊移転計画は、1995年の沖縄少女暴行事件にさかのぼる。反基地感情の高まりを受けて日米が設置した特別行動委員会(SACO)で合意された。普天間飛行場の返還も、沖縄県内への移設という条件付きで盛り込まれた。岩国市は合意を受け入れ、見返りに新庁舎の建設費補助を国から取り付けた経緯がある。

 その後、米海軍厚木基地(神奈川県)からの空母艦載機の岩国移転を新たに打ち出した米軍再編計画に組み込まれた格好になる。少なくとも再編に関係するさまざまな基地の問題と「パッケージ」として位置付けられたはずだ。

 だが肝心の普天間移設が、県外移設を求める沖縄の強い民意で宙に浮いたままだ。そうした状況の中で空中給油機だけを安易に切り離す日米の姿勢は、やはり首をかしげる。きのう山口県の藤部秀則副知事と岩国市の福田良彦市長がそろって「普天間の見通しが立っていない間、移転は認められない」との認識を示したのも当然だろう。

 沖縄の負担軽減というなら、オスプレイも配備された普天間の問題を県民の視点に立って解決するのが先決であろう。

 岩国に関していえば、もう一つの日米合意もあった。米軍基地にある海上自衛隊基地の所属機17機を、厚木基地に移す計画を取り下げるという。地域振興などの面から岩国市や経済界が要望したのを反映した形だ。

 だからといって、必要な手順を無視してはなるまい。かつて米軍再編計画の理解を岩国市民などに求めるにあたり、自衛隊機がいないことを前提に騒音予測を示したはずだ。山口県も修正を求める考えという。

 加えて移転予定の艦載機も最近、騒音のより激しい機種への切り替えが進んでいる。住民の間には米軍再編への不信感は消えていない。ここは新たな情勢を踏まえた住民説明のやり直しが欠かせないのではないか。

 集団的自衛権行使容認の動きを見ても、安倍政権が自衛隊と米軍の一体化を強める意図なのは間違いない。日本国内の基地の位置付けや運用も変わる可能性がある。だからこそ頭越しではなく、基地の地元の声を尊重する姿勢が問われてくる。

(2013年10月4日朝刊掲載)

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