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社説・コラム

天風録 「アンパンマン」

 赤い服を着せられ球場へ。そんな幼子をカープ戦で見かける。野球は分かるはずもないが、真っ赤なほっぺのほころぶ瞬間がある。松山竜平選手の打席。愛嬌(あいきょう)のある、丸顔の強打者はアニメの軽やかなマーチとともに現れる▲♪何のために生まれて 何をして生きるのか…。子どもらが口ずさむアンパンマンの主題歌はそっと、深く問い掛ける。腹ぺこの仲間に自分の顔をちぎって渡す。自己犠牲のヒーローを描いた、やなせたかしさんが亡くなった▲原点は中国での従軍体験。飢えて野草まで食べたという。本当の正義とは。漫画家は戦後、激変した国で考える。たどり着いた答えは、献身と愛。大げさに考えなくていい。ひもじい人に一片のパンを差し出すことという▲小さきものや弱きものに注ぐまなざしは、優しく愛情にあふれていた。♪ミミズだって オケラだって…。作詞した「手のひらを太陽に」は生命の賛歌。生きている皆が友達だと。悪さする者も受け入れるように▲ばいきんまんはアンパンチで飛ばされて、星に。でもまた姿を見せる。がんや心臓病などを何度も患いながらも、明るく生きた94年と重なるよう。親子で楽しみ、歌い継ごう。

(2013年10月16日朝刊掲載)

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