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社説・コラム

『書評』 「戦後はまだ…」山本宗補写真・文

 フォトジャーナリストの著者がアジアと日本の戦争の被害者、加害者双方を訪ね、70人のモノクロの肖像と証言を収めた。物故者も少なくない。粘り強い取材がなければ、歴史の闇に埋もれてしまったに違いない。

 一人一人の顔が持つ陰影やしわ、古傷やケロイドが見る者に鮮烈な印象を与える。文字や語りでは表現できない何か。それは全ての写真に共通しているのだろう。

 中国地方では広島の被爆者や大久野島(竹原市)の毒ガス障害者を取材。侵略戦争が庶民や少年少女の人生をどのように翻弄(ほんろう)したのかが分かる。

 旧日本軍「慰安婦」だった90代の韓国人女性は「『恨(ハン)』は今も残るが、死後の夢も見る」という。来世では子を産む普通の女の幸せを、と願う。日本の為政者には聞かせたい。(彩流社・4935円)

(2013年10月19日朝刊掲載)

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