×

社説・コラム

ルポ 大気汚染・水質悪化の中国 環境と経済 両立に苦悩

 急成長を続ける中国経済。一方で、環境汚染は深刻さを増している。両立に苦悩する大国。第31回日中記者交流計画に基づく日本記者訪問団の一員として先月下旬、中国を訪れ、環境規制を強め始めた現状を垣間見た。(守田靖)

豊かな自然 農村に脚光

 渋滞が続く北京市内。空はかすみがちで、喉がいがらっぽい。スモッグは帰国後、一層激しくなり、各地の高速道路が閉鎖された。現地では、微小粒子状物質「PM2・5」に神経をとがらせる市民が、スマートフォン(多機能携帯電話)で数値をチェックしていた。

 訪問直前、北京市当局は大気汚染防止行動計画を発表した。2017年までの5年間でPM2・5の大気中の値を25%減少させる目標を掲げる。主要因の一つである車の排ガスを抑制するため、市内の車の登録台数を600万台以下(現状は500万台超)に抑えたり、市中心部の駐車料金を引き上げたりと、環境規制を強化する。

 「先進国が長年かけて経験し、克服してきた環境問題を中国は20~30年で経験している。解決への国内外の圧力を感じている」。国家環境保護部中日友好環境保護センター(北京市)で、董旭輝総技師は行動計画策定の背景を説明した。

 「日本の先進的な技術を導入したい」と熱く語る政府関係者たち。日本の環境省などとの技術交流も進んでいる。ただ、中国では冬、暖房用ボイラーに大量の石炭を使用するため、根本解決へのハードルは高い。「環境保護を両立している先進国並みに経済発展するには30年はかかる。PM2・5の解決も長くかかるかも」と率直に話す研究者もいた。

 改革開放政策による経済発展は、各地に環境汚染をもたらした。浙江省のある地域では1990年代、工場から出た有害物質で半分の川が汚染され、大量の魚が死んだという。地方政府は「生存環境の方が経済発展より重要」と工場を強制的に操業停止させた。「これ以上、今の発展政策を続けられないと思った」と幹部は振り返る。

 ただ、大気汚染や水質悪化を防ぐには、工場の脱硫装置や汚水浄化設備などが必要。整備費を確保するためにも「強い経済がなければ環境保護を論じる余地はない」と同省の幹部。中日友好環境保護センターの董総技師も「保護しながら発展し、発展しながら保護する」という李克強首相の言葉を引用。経済発展と環境保護のどちらも欠くことができない現状を訴えた。

 その中国が今、力を入れているのが「エコ文明村」の建設だ。上海市から西へ200キロの浙江省安吉県は先進地。県内160カ所以上で、「中国一美しいカントリーづくり」が進んでいた。

 人口1543人の同省横山塢村に広がる巨大な観光果樹園。休日になると都市部の人たちが押し寄せる。おいしい空気を吸い、健康的に過ごす。白菜栽培などが主体だった村が脚光を浴びている。

 農村の豊かな自然そのものが金を生む新たな資源として注目されつつある。「(経済と環境という)二兎(にと)を追う」と同省幹部は自信ありげだ。エコ政策は習近平国家主席が同省幹部時代に唱え始めたという。環境保護が経済発展にもつながるエコ文明村。中国が目指す未来図の一つなのだと感じた。

(2013年10月20日朝刊掲載)

年別アーカイブ