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社説・コラム

天風録 「学徒出陣70年」

 「便所の話。海軍はお掃除好きである」「飯の話。海兵団の飯は玄米飯である」。東京帝国大から学徒出陣した和田稔少尉は水兵として入営直後、日記にこう記す。詩を書くように、軍隊生活を観察して▲きのう東京・明治神宮外苑競技場での出陣学徒壮行会から70年。ニュース映画で見る、あの雨中の大行進である。学業半ば、徴兵猶予停止に基づく文科系学生の動員。しかも12月1日入営という、まさに猶予なき命令だった▲かの水兵は特攻を志願し少尉に任官。1945年7月、人間魚雷・回天の訓練中に周防灘で殉職した。絶筆は、再びイ三六三潜にて出撃の予定なり―。日記はひそかに家族の手に渡り「わだつみのこえ消えることなく」と題して戦後、世に出た▲哲学者上山春平さんも回天搭乗員だった。便所の話、飯の話が当初ないことに気付き、別の文庫版で復元してもらったという。死を受け入れようとする言辞だけでは学徒の実像が見えない。そう考えたからか▲私の柩(ひつぎ)の前に唱えられるものは、青春の挽歌(ばんか)ではなく青春への頌歌(しょうか)であってほしい―。日記はこうも記す。頌歌とはことほぎ。死に方とは生き方だろう。思いは現代に通じよう。

(2013年10月22日朝刊掲載)

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