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社説・コラム

社説 核不使用声明 次は禁止条約の制定だ

 広島、長崎の惨禍を二度と繰り返してはならない。被爆地からすれば当たり前すぎる警鐘ではあるものの、国際社会があらためて確認した意義は大きい。

 人道にもとる核兵器は決して使ってはならないとする声明が国連総会第1委員会(軍縮)で発表された。同種の声明は4回目にして最多の125カ国が参加した。日本政府も姿勢を転換し、初めて加わった。

 「核のない世界」を求める国際潮流にとって重要な節目といえよう。うねりをさらに高めたい。次は核兵器の明確な非合法化、すなわち全面禁止条約の制定だ。被爆国はこれ以上、世界の流れを見誤らないでほしい。

 「いかなる状況下でも核兵器が使われないことが、人類の生存につながる」。日本政府が前回、賛同できないとした文言は今回も含まれる。

 それでも署名した理由について岸田文雄外相は、わが国の安全保障政策と整合する内容へと声明が修正された点を挙げる。

 「核軍縮に向けたすべてのアプローチと努力を支持」とのくだりを指すらしい。ここをよりどころに、米国の「核の傘」に頼りながら核軍縮・不拡散を説く日本の立場が認められた、と政府は解釈したようだ。

 2000年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議を思い出す。核兵器廃絶の「明確な約束」が最終文書に盛り込まれた。「究極的廃絶を目指す」という、お茶を濁すような日本政府のそれまでの物言いがきっぱり否定された瞬間だった。

 残念だが被爆国は、廃絶を目指す世界の動きから一歩も二歩も遅れてきた。今回も被爆地をはじめ内外の激しい批判がなければ腰を上げなかっただろう。

 しかも核軍縮を漸次進めるという段階的なアプローチを取る限り、廃絶の展望が開けないことは、政府も分かっていよう。

 遅れを挽回するには、発想を変えた次のステップが求められる。大事なのは「核の傘」という現状に合わせて声明を修正することではないはずだ。「核兵器を二度と使われなくする唯一の方法は核廃絶以外にない」という声明の文言を肝に銘じ、いかに行動するかであろう。

 「核の傘」に頼る矛盾からの脱却は、実現不可能な絵空事だろうか。北大西洋条約機構(NATO)加盟国のノルウェーやデンマークが今回の声明に賛同したことに留意したい。

 NATOには現在、米国が戦術核を配備し、「核の傘」を差し掛けている。その撤収を迫る足元からの意思表示と受け取ることができよう。

 日本周辺を見れば、中国は核保有を、北朝鮮は核開発をやめようとしない。だが「核の傘」は対抗手段として不可欠というばかりでは、北東アジアから核の脅威はなくなるまい。

 米国という大国の核が、他国の開発や保有を思いとどまらせる抑止力となったかといえば、むしろ逆方向に働いたことは戦後の歴史が証明している。

 たとえ困難な道であれ、開発、保有、移転、使用を丸ごと非合法化する核兵器禁止条約を目標に据えたい。そのうねりを起こすことこそ、被爆国の取るべきアプローチではないか。

 実現には市民運動の盛り上がりと連携が欠かせない。核兵器がいかに非人道的か、被爆地からの発信力強化も問われる。

(2013年10月23日朝刊掲載)

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