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社説・コラム

天風録 「丹下建築と五輪」

 2020年東京五輪の開催が決まってはや1カ月半。あの日の高揚感を思い出しつつ、前回の五輪の会場だった国立代々木競技場に足を運んだ。完成から49年。人間ならまだまだ現役に違いない▲色づき始めた木々に映える外壁は何度も塗り直しているのか、思いのほか美しい。屋根全体をつり下げた斬新な設計は旧制広島高出身で、広島を「第二の古里」と呼んだ丹下健三氏。ことし生誕100年の節目である▲青春の街は原爆で壊滅した。そのためか、いち早く復興計画作りに手を挙げ、原爆資料館や原爆慰霊碑、原爆ドームを一本の軸線で結ぶ平和記念公園を提案した。この場所に込められた市民の希望と同調しなければ、と▲代々木競技場も日本の戦後復興という希望の象徴になった。今は静かに歓声を待ちわびていて再びの五輪のときは56歳になる。その年、原爆資料館は65歳を迎える。列島の西と東に、平和と復興の歴史を刻んで並び立つだろう▲流線形の予想図が印象的な新国立競技場の方は、3千億円の整備費が法外だと異論が出た。おとといの国会論戦だ。成熟五輪らしく、経費は抑えて―。多くの国民の思いと「同調」するような殿堂を待ちたい。

(2013年10月25日朝刊掲載)

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