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社説・コラム

社説 特定秘密保護法案 保障されぬ「知る権利」

 国の安全保障などに関わる秘密を漏らした公務員らに対して罰則を強化する特定秘密保護法案が、きのう国会に提出された。菅義偉官房長官は「喫緊の課題だ。早期に成立できるよう努力したい」と述べた。

 9月に政府原案が示されて以降、与党内の修正要求、野党やメディアなどの批判も相次ぎ、安倍政権は対応する姿勢を見せてはきた。だが、結果として国民の「知る権利」を制約することには変わりがない。

 最終案は知る権利に配慮するというものの、努力規定にすぎない。知る権利の保障とはいえまい。取材活動は「法令違反」や「著しく不当な方法」でなければ罰しないというが、線引きすること自体が問題である。

 沖縄返還の密約を報じて毎日新聞記者が国家公務員法違反容疑で逮捕された西山事件を引き合いに出し、これは「不当な方法」だという。これが既に線引きである。執行猶予付き有罪判決という結論をもって言うのだろうが、一方でこの密約の存在を認めた判決も出ている。

 特定秘密の有効期限については修正があった。5年ごとに延長できるが、30年を超える場合は内閣の承認が必要だという一項である。ただ、秘匿が必要なくなった時は指定解除するよう定めてもいるが、指定を解除する期限は設けていない。

 このままでは何が秘密とされ、それが妥当かどうか、国民や第三者が検証するすべはない。与党内部でも懸念がある。

 また、秘密指定の運用基準の策定などに有識者の意見を聴くことも明記された。だが、実際の運用が適正かどうか、確認するすべは今のところない。

 特定秘密は政権交代のつど、適否の判断をすることもあり得るという。安倍晋三首相はおととい、参院予算委員会でこう答弁した。特定秘密は時の政権が恣意(しい)的に指定または解除できると、認めたも同じだろう。

 そもそも、国家公務員による重大な情報漏えい事件が多発している現実があるのだろうか。

 法案制定のきっかけは、海上保安官が関与した2010年の尖閣諸島沖・中国漁船衝突の映像流出事件である。民主党政権下で浮上した動きだが、特定秘密に類する事例だったかどうか、疑問の声さえある。当初から問題のすり替えがなかったのかどうか。

 法案では、公務員以外の民間人が秘密を入手する行為も処罰の対象になる。しかし、報道機関に限らず、多くの市民がインターネットで情報を発信し、拡散する時代に、どのような縛りをかけるというのだろう。

 国会議員も人ごとではないはずだ。特定秘密の内容を基本的に知らされることがなく、秘密会に同意すれば口外できない。憲法に定められた国政調査権に関わる問題でもある。

 民主党はきのう、国民の知る権利を担保するための情報公開法改正案を提出した。特定秘密保護法案と同時に審議される予定だが、この法案の問題点を洗い出すことにも精力を傾けてもらいたい。

 臨時国会は12月6日までが会期であり、十分な審議時間が確保できまい。与党内の修正協議も十分だっただろうか。今国会も国民生活に直結する課題は山積している。この法案の採決はいったん見送るべきだろう。

(2013年10月26日朝刊掲載)

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