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社説・コラム

社説 在外被爆者訴訟 援護法改正 議論しよう

 韓国の被爆者にも、日本国内と同様に医療費を全額支給すべきだ―。大阪地裁が、支給申請を却下した大阪府の処分を取り消す判決を言い渡した。

 日本国外の被爆者を苦しめてきた格差の解消へ、一歩前進といえよう。

 在外被爆者は、長く日本の支援の枠外に置き去りにされてきた。1970年代以降の国内の司法判断で少しずつ改善されてきたものの、医療費支給をめぐる不平等は積年の課題であった。判決の意義は大きい。

 これを受け松井一郎大阪府知事は、控訴を断念する考えを示している。同様の訴訟は広島、長崎地裁でも起こされており、影響を与えそうだ。

 被爆者は高齢化している。解決は待ったなしである。

 今回の訴訟の最大の争点は、海外の被爆者がそれぞれの国で治療を受ける際に、日本の被爆者援護法が適用されるのかどうかだった。

 国は援護法に基づき、国内の被爆者には医療費の自己負担分を全額支給する。しかし、海外の被爆者は対象外で、国が別に約18万円の上限を設けて助成してきた。

 国は格差の理由について「医療保険制度などの体制が違う」ことを挙げる。手厚い公的医療保険がある日本と異なり、自己負担が高額になる国・地域も多く「支給の適正性を担保できない」というのが理由である。

 しかし、国内の被爆者には、海外旅行などの出国先でも医療費支給を認めている。これでは、不平等と指摘されるのも当然だろう。  海外から来日して治療する際は医療費が全額支給されるものの、高齢のため渡航が難しい例は多い。国は迅速な対応を迫られているといえる。

 ただ今回の判決に即して、運用を大幅に変えるには現実的な課題もある。

 海外の被爆者は約4500人、38の国・地域に及ぶ。それぞれに異なる医療制度を乗り越えて支給するには、煩雑な手続きが必要だろう。

 また国交のない北朝鮮などに住む被爆者にどのように支給すればいいのか。医療行為の実態の把握も難しい。政治の力が求められる。

 今回の裁判があらためて問いかけたのは、援護法の基本理念に違いない。

 国はこれまで、在外被爆者をめぐる裁判で敗訴を重ね、そのたびに部分的に制度を改める対応を続けてきた。

 問題の根底にあるのは、国の援護法に対する考え方に「国家補償」の趣旨を盛り込んでいないことがある。国は被爆援護を「社会保障」と捉え、国内被爆者を対象とすることを基本的な立場としてきた。

 一方、司法の側では、援護法を国家補償の趣旨で捉える流れが定着しつつある。今回の判決でも「援護法は国家補償の性格がある」と指摘している。

 非人道的な原爆投下は、国が起こした戦争の中でもたらされた。原爆被害を国が国の責任で償うことは、多くの被爆者の願いでもある。

 この際、援護法の抜本的な改正を議論し、国家補償の精神を明記すべきではないか。

 それは「再び被爆者をつくらない」と国が約束する道につながる。

(2013年10月27日朝刊掲載)

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