×

社説・コラム

社説 日露2プラス2 世界の多極化見据えよ

 外交と防衛を担当する大臣が懸案を話し合う。「2プラス2」という閣僚会合は本来、緊密な関係あってこそである。

 日本の相手は米国とオーストラリアだけだったが、安倍政権は平和条約締結が棚上げのままのロシアとの間で、異例の開催に踏み切った。今も北方領土をめぐってすきま風が吹き、空軍機の領空侵犯も絶えない。

 今回は自衛隊とロシア軍によるテロ・海賊対策の共同訓練など安全保障分野での協力拡大に合意したという。信頼醸成という面ではむろん意味があろう。とはいえ実のところ、どこまで腹を割って話ができたか。

 安倍政権の狙いは明らかだ。一つはプーチン大統領との信頼関係を生かして2国間関係を拡大しつつ、北方領土返還の糸口を探ること。もう一つは海洋進出を図る中国へのけん制だ。ロシアとの関係強化で、防衛力を北方から南西諸島に振り向けたい意図もあるとみられる。

 ただ日本側の戦略通りに進むかどうかは見通せない。伝えられる初回の様子からは、ロシア側の本音も透けて見えた。

 ロシアが極東やシベリア開発で日本の経済協力は欠かせないと考えているのは間違いない。友好ムードが演出されたのはそのためでもあろう。半面、両国の思惑の違いが浮き彫りになったとの見方もできる。

 北方領土に関しては、2プラス2に先立つ外相会談で次官級協議を年明けに開くことで一致した。その点は成果といえようが事態が前進したわけではない。解決に意欲的な大統領に比べ、ロシア政府全体ではいまだ対日強硬論が強いからだ。

 中国への対応についても、ロシア側の反応はいまひとつだったようだ。そもそも中ロは軍事的にも一定の協力関係にある。中国の海洋権益拡大に関する警戒心はロシアでも強いが、日本との温度差はやはり大きい。

 多国間の安全保障は複雑なパズルのようなものだ。米ロにしても時に協調しつつ基本は対立している。その米国と同盟関係にある日本はロシアから見れば簡単に譲れない相手でもある。現に今回、国防相は日米のミサイル防衛(MD)に「軍拡競争を招く」と懸念を表明した。

 2プラス2の意義を強調する日本政府だが、本当にロシアの意をくめば日米同盟にも影響が出ることをどう考えるのか。そこを見ずして回を重ねても、少なくとも安全保障については形ばかりになりかねない。

 いま豊富なエネルギー資源も背景にロシアは国際社会で自信を深める。軍事力行使しか選択肢のない米国に代わり、シリアの化学兵器問題に解決の道筋をつけたのも発言力向上につながったといえる。そんな隣国に対し、中国へのけん制という目先の発想で接近すれば逆に足元を見られはしないだろうか。

 一方で米国の影響力は低下しつつある。自国内の政治的混乱に加え、各国における通信傍受疑惑も信頼失墜に結びつきそうだ。ここは安倍政権も米国依存一辺倒の姿勢を見直し、世界の多極化を見据えた複眼外交に切り替えるべき段階だろう。

 せっかくできた2プラス2の枠組みを経済や文化を含む真の「ウィン・ウィン」の関係につなげたい。日ロのチャンネル強化は米国の行き過ぎに歯止めをかける力にもなるはずだ。

(2013年11月4日朝刊掲載)

年別アーカイブ