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社説・コラム

社説 NSC審議 秘密保護法と切り離せ

 日本版「国家安全保障会議(NSC)」を創設するための関連法案がきょう、衆院特別委員会で採決される。賛成多数で可決される見通しである。

 法案は先月25日に提出されたばかり。質疑は計20時間を超えるため十分だ、と与党は判断したようである。だが、議論を尽くしたといえるだろうか。

 官邸主導で外交・安全保障に関する情報収集と政策決定を行う「司令塔」の強化―。安倍政権はNSCをそう位置付ける。

 首相、官房長官、外相、防衛相の「4大臣会議」を定期開催する。事務局は、自衛官を含め関係省庁から集めた60人規模の「国家安全保障局」が担う。

 安倍晋三首相は第1次内閣でも設置を目指したが、法案は廃案になった。今回はアルジェリア人質事件や中国の軍備増強を踏まえ、情報を一元的に収集・分析し政策を練る体制づくりがあらためて重視された。

 モデルは米大統領の直属機関である。米国のNSCに対応する組織と位置付ける。

 外交・安全保障の緊急事態や大規模災害の際、迅速かつ的確に判断できるなら、NSC設置には意味がある。だが「器」づくりは入り口にすぎない。

 NSC設置の背景には、外務、防衛、警察など各省庁が情報を抱え込む「縦割り」の弊害がある。福島第1原発事故の直後の混乱もそうだろう。

 縄張り意識をいかに払拭(ふっしょく)して役割分担するか。どれだけ質の高い情報を吸い上げて一元管理できるかが鍵となる。

 自民、公明、民主3党は法案の修正案を提出し、NSC議長の要求に応じて各省庁に情報や資料などの提出を義務付けることで合意した。

 ある程度は課題が整理されたのかもしれない。安倍政権がNSC創設を特定秘密保護法案とのセットと位置付けているため、二つの法案の関係をめぐるやりとりにも一定の時間が割かれた。

 特定秘密保護法案は「日本版NSCの機能を発揮させるためどうしても必要だ」と首相はかねて強調している。膨大な情報をやりとりする米国との信頼関係を保つのだという。

 しかし、NSCで行われる議論自体も「特定秘密」に指定される懸念をはらむ。拡大解釈され、国民の知る権利はさらに浸食されかねない。

 民主党は、4大臣会合の議事録作成を義務付けるよう求めた。「政策決定過程を後に国民が検証できるようにすべきだ」というのが理由である。ただ、拘束力のない付帯決議に入れることで折り合ってしまった。

 NSC創設関連法案が参院に送付されれば、政府は速やかに特定秘密保護法案の審議に移りたい考えである。これと「セット」である限り、NSCは利点より危うさが大きい。

 秘密保護法案は、民主党が提出した情報公開法改正案と同時に審議される予定である。非公開文書の公開を首相が勧告できる制度導入を含む内容だが、「特定秘密」をめぐる懸念を打ち消すものとはいえまい。

 日米同盟関係の現状からも、既存の法律でNSCでの情報管理はできるはずである。この前提に立ち、参院ではNSCのあり方を秘密保護法案と切り離して論じるべきだ。野党の発言力も問われる。

(2013年11月6日朝刊掲載)

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