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社説・コラム

『書評』 自国相対化の視点必要 国際文化会館 連続シンポまとめ刊行

 経済や外交の行き詰まりから、内向き志向が強まる日本。その打開策はどこに―。元国連事務次長で国際文化会館理事長の明石康さん(82)が編者を務める「日本の立ち位置を考える」=写真=は、国内外6人の論客たちが交わした多角的な「日本論」を収録。日本を外からみる視点が新鮮だ。

 昨年の同会館創立60周年を記念した連続シンポジウムをまとめた。日本だけでなく、米国や中国、韓国などの研究者らが、率直な物言いと冷静な分析で、日本の立ち位置を浮き彫りにする。

 東日本大震災でみせた日本人の優しさや絆は世界に感銘を与え、日本の技術者の高い倫理観は依然、尊敬を集めるという。一方で、リーダーシップの欠如、政治の弱さは、流される国をつくってしまったとの指摘も。

 ハーバード大名誉教授のエズラ・ボーゲルさんは「指導者が頻繁に代わる日本と一緒に仕事をしようという忍耐力が低下している」と米政府の状況を解説。亀裂が深まる日韓関係について、ある韓国人研究者は「政治家より市民の方が冷静で市民社会の成熟に希望が持てる」と提言している。

 連続シンポを企画した明石さんは「国の存在感が薄れたと焦っている今こそ自国を相対化し、突き放してみる視点が大事」と強調。今後も、冷静な議論を続けていこうと訴える。

 平和構築も大きなテーマだ。広島県がまとめた国際平和拠点ひろしま構想の策定委員会座長を務めた明石さんはヒロシマの役割について「非核と平和という理念の灯を掲げ続け、権力政治というものの現実を理想に近づける方策を想像力豊かに考える、その先頭に立つこと」と助言していた。

 岩波書店刊、四六判、193ページ、2205円。(守田靖)

(2013年11月12日朝刊掲載)

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