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社説・コラム

『論』 ミャンマーの民主化 歩み止めぬよう見守ろう

■論説委員 金谷明彦

 ほんの数年前までの軍政では想像できなかった光景だろう。ミャンマーの旧首都ヤンゴンの繁華街。民主化運動の象徴、アウン・サン・スー・チー氏の似顔絵のTシャツやコーヒーカップを売る露店がいくつも見られた。

 状況が変わったのは2011年3月の民政移管からだ。スー・チー氏は自宅軟禁を解かれ、最大野党の国民民主連盟(NLD)党首として連邦議会の下院議員になった。

 日本各地の地方紙の論説委員と先月、現地を訪ねた。印象に残ったのは、国の変化を歓迎する人々の姿だった。

 「民主化後、外国からの観光客が増えて、ずっと商売がよくなった」。ヤンゴンの市場で木彫りの仏像店を営む男性(58)が明るい表情で語る。売り上げは2年前から倍増したという。人権侵害を理由に経済制裁を続けた欧米諸国は制裁の大半を解除した。ミャンマー経済は上向いている。

 仏像店のあるじは、軍出身で民主化にかじを切ったテイン・セイン大統領の政権運営を評価する。その一方でスー・チー氏が大統領になれば、さらに外国との関係が改善されると期待を口にした。

 軍政下では、国民が政治について発言することははばかられた。政治犯として捕まる恐れがあったからだ。今回、現地では国民が自由に話せる雰囲気が伝わってきた。

 しかし民主化は道半ばだ。その歩みが止まらぬよう、日本をはじめ国際社会が見守る必要がある。

 何より現憲法では連邦議会の議員定数の4分の1が軍人に割り当てられている。首都ネピドーにある議事堂を訪れ、軍服を着た議員が並んで座る議場を目の当たりにした。違和感は拭えなかった。

 15年にある次の大統領選に向け、スー・チー氏たちは憲法改正を訴える。これに対しアウン・テイン大統領府副大臣は議会の軍人枠は徐々に減るとの見方を示しながら、早期の改正については「憲法の良い点、悪い点はまだ判断できない」と話した。さらなる民主化を積極的に進める意思は感じ取れなかった。

 虐げられてきた少数民族の問題も根深い。政府は闘争を続けてきた各地の少数民族の武力勢力と和平交渉を進めている。全土の停戦合意を実現できるかは不透明な情勢だ。

 依然として残るメディア規制も撤廃すべきだ。政府は検閲制度を廃止し、ことし4月、国営紙に限っていた日刊紙の発行を民間に認めた。ただ認可制であり、発行を取り消す規定もある。

 日本はミャンマーとどう向き合うべきか。安倍政権はことし、26年ぶりに円借款を再開した。ニャン・ウィンNLD報道官は外国の経済援助や投資が雇用を生むと前向きに捉えながら、「経済が優先され、民主化が後回しになりかねない」と心配する。日本政府は民主化が着実に進むよう働き掛けてほしい。

 日本企業も熱い視線を送っているが、電力不足などを理由に進出を見合わせるケースが多いようだ。現地では高水準の技術を移転してくれる製造業に進出してほしいとの要望を耳にした。人材育成の面でも中国地方のものづくり企業が果たせる役割がある。

 すでにミャンマーに根付いている日本のNPO法人の活動は心強かった。その一つが、ジャパンハート(東京)が3年前、ヤンゴンに開設した養育施設である。貧困に苦しむ現地の子どもたち約160人が暮らす。多くは地方の村から来た少数民族だ。施設の運営資金は日本からの寄付などで賄う。こうした草の根の支援が広がっていくよう後押ししたい。

(2013年11月14日朝刊掲載)

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