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社説・コラム

社説 ケネディ新大使 オバマ氏と広島訪問を

 米国の新しい駐日大使として先週、キャロライン・ケネディさんが着任した。あす皇居で天皇陛下に信任状を奉呈し、正式に始動する。

 外交手腕は未知数として起用には懐疑的な見方もあったようだ。とはいえオバマ大統領の信任は厚い。暗殺されたジョン・F・ケネディ元大統領の長女であり、知名度も群を抜く。彼女を指名したのは日本重視の表れだと素直に受け取りたい。

 被爆地にとっては、原爆を投下した国の大統領名代にほかならず、複雑な思いにもとらわれよう。ただ彼女のこれまでの行動や最近の発言を聞く限り、ことさら原爆被害から目を背ける人物ではなさそうだ。

 むしろ1978年に広島を訪れ、「大きく心を揺さぶられた」という。大使着任を前にした日本国民向けビデオメッセージでも「より平和な世界の実現に取り組みたいと切に願う」きっかけになったと明かした。

 できるだけ早く被爆地を再訪してもらいたい。できればオバマ氏と一緒に訪れ、世界平和だけでなく核兵器廃絶への思いを被爆者と共有してほしい。

 35年前の本紙によると、20歳の大学生だったケネディさんは「コールテンパンタロンにズックぐつ」と簡素な服装だった。原爆資料館では叔父の故エドワード・ケネディ上院議員らから1人遅れ、被爆者の遺品に見入ったという。

 父への思いを重ねていたに違いない。「あの時、核戦争にならなくて本当によかった」と。

 62年、ケネディ大統領は旧ソ連のフルシチョフ首相にキューバからのミサイル撤去を迫り、先制攻撃を求める国内の強硬派を抑え込んで、最終的には核戦争や第3次世界大戦を回避した。キューバ危機である。

 その父が暗殺されてから今月22日で50年となる。現職大統領として初の訪日がかなわなかった父に代わり、大使として日本で迎える命日は万感の思いでもあろう。着任に当たり「日本こそ私の奉仕先」とも述べた。デザイナーである夫との新婚旅行でも日本を巡ったという。

 そうした広島や日本への思いこそ、いかなる政治・外交経験よりも重要ではないか。前任のジョン・ルース氏が道を開いた8月6日の平和記念式典参列を恒例化し、ヒロシマの声を米国民に届けるよう願う。

 日米両国は現在、懸案ばかりを共有している。米軍普天間基地に象徴される沖縄の負担軽減、環太平洋連携協定(TPP)交渉の行方、北朝鮮の核開発への対応、さらには軍備増強へ走る中国とどう向き合うか。

 「アジア重視」を掲げるオバマ氏は、一方で連邦議会対応など国内問題に追われ、内向き姿勢を強めているようだ。「極めて短時間で大統領に電話がつながる」ケネディさんへの期待が高まるゆえんでもある。

 もちろんオバマ氏の被爆地訪問に懐疑的な見方はあろう。ノーベル平和賞を受けながらも、核抑止力に頼る姿勢は変えようとせず、新型や臨界前の核実験を繰り返しているからだ。

 だが、核大国の為政者だからこそ直接、原爆の非人道性を肌で感じるべきだ。「核のない世界」へと踏み出すには、避けて通れない一里塚である。新大使に、その先導役をきっちり務めてもらいたい。

(2013年11月18日朝刊掲載)

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