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社説・コラム

天風録 「いもとケネディ家」

 「いも」は野暮天(やぼてん)の代名詞にもなる。だがアイルランド系米国人の、この女性にはジャガイモとの因縁話がついて回る。このたび駐日大使となったキャロライン・ケネディさんである▲19世紀半ばのアイルランドで、主食のジャガイモを疫病が襲う。見る見る全土の畑は凶作に。困り果てた国民の1割を超す100万人が母国を離れた。大西洋を渡った一人のひ孫は米大統領の座に就く。新大使の父親だ▲歴史の一こまは「ジャガイモ飢饉(ききん)」と呼ばれる。昨今は、生物多様性の大切さを物語る逸話として知られている。いわく、品種が一つに偏っていた当時の作付けが招いた悲劇だったと。少量多品種が農と命を永らえるこつとも取れる▲米国社会そのものも「人種のサラダボウル」に例えられてきた。したたかで、しなやかな国力の源は多様性だったはず。にもかかわらず「強い米国」の一極支配で世界を単色に染め上げようと無理をし、今に至るつまずきのもとに▲英語でザ・ポテトとつづれば、おあつらえ向き、ぴったりといった意味にもなるという。親日家でヒロシマを知る大使。ジャガイモとの縁を知るや知らずや、オバマ政権の味な起用にみえてくる。

(2013年11月19日朝刊掲載)

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