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社説・コラム

社説 秘密保護法案審議 なぜそんなに急ぐのか

 審議時間は十分とはいえない。ところが政府・与党は今週中に特定秘密保護法案の衆院通過を目指すという。野党との修正協議が不調に終われば、強行採決も視野に入れる。

 法案の審議入りから10日余り。与野党の国会での議論を通じ、いくつもの懸念や疑問が浮かび上がっている。

 森雅子内閣府特命担当相は先週、衆院の委員会審議で法案成立後の見直しに言及した。担当閣僚が修正の余地があると認めたに等しい。何よりまず、法案の成立を優先したい政府の姿勢の表れでもあろう。

 だが法案に問題があれば、解決するまで議論を尽くすのが立法府の王道であるはずだ。数の力に任せて採決に踏み切ることは許されない。

 国民の大多数が賛成している状況でもない。共同通信が先月下旬に実施した世論調査では、法案への反対が半数を超えた。慎重審議を求める意見は8割を上回る。法案の賛否を問わず、多くの人がじっくり時間をかける必要があると考えている。

 それなのに政府の前のめりの姿勢が目立つ。外交・安全保障政策の司令塔となる日本版国家安全保障会議(NSC)の年内発足を目指しており、秘匿度の高い情報を外国とやりとりできる体制を早期につくりたい狙いがあるようだ。

 とりわけ米国が秘密保護体制の強化を日本に求めているとされる。日米同盟を強めたい安倍政権は、米国側の意向に沿うため何としても今の臨時国会で法案を成立させたいのだろう。

 与党は野党に働き掛け、日本維新の会、みんなの党が修正協議に加わっている。しかし意見の対立点は少なくない。

 まず、行政機関の長が指定し公務員たちが漏えいすると罰せられる「特定秘密」の範囲だ。政府案は防衛、外交、スパイ活動防止、テロ防止の4分野を挙げている。これに対し維新の会は防衛関連に限定するよう求めている。特定秘密の範囲が広ければ、行政機関が都合の悪い情報を恣意(しい)的に指定する可能性が高まるとの懸念は当然だろう。

 次に秘密の指定期間である。政府案は原則30年以内だが、内閣の承認があれば延長も可能としてきた。これでは永久に秘密が公開されない恐れがあり、憂慮される。維新の会は最長30年にすべきだと主張する。

 特定秘密の指定が妥当かチェックする第三者機関の設置も、重要な論点である。野党側の求めに対して、政府が検討する姿勢を見せている。

 これらの野党側の主張には、一定の根拠はあるだろう。ただし仮に政府が全てを受け入れたとしても、依然として法案に問題は残っている。

 最も大きな疑念は、国民の「知る権利」が守られるのかということだ。確かに、法案は報道や取材の自由に十分な配慮を求めると記す。しかし「著しく不当な方法」による取材は処罰対象とされている。先週の国会の審議を聞いても、その線引きは曖昧と言わざるを得ない。

 来年の通常国会にかけ、きちんと議論すれば、さらに多くの問題が論点となるに違いない。そのため政府・与党は今国会で成立させてしまいたい思惑があるようだ。重要な法案の審議だけに、やみくもに急ぐことがあってはならない。

(2013年11月19日朝刊掲載)

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