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社説・コラム

社説 核燃料取り出し やっと緒に就いた廃炉

 東京電力はおととい、福島第1原発の4号機にある使用済み核燃料プールから核燃料を取り出す作業に着手した。

 原発事故から2年8カ月。政府と東電は、3段階に分けた廃炉作業の第2期に入ったと位置付けている。

 確かに節目だろう。とはいえ原子力規制委員会の田中俊一委員長が「汚染水以上に心配」と発言するようにリスクを伴う作業だ。長期的な視点から、安全で着実に作業を継続できる体制を整えなければなるまい。

 東日本大震災時、4号機の建屋は水素爆発で大破した。定期検査のため原子炉は空だった一方、1533体もの燃料集合体が移されていたプールに大量のがれきが落ちた。余震で崩壊すれば大惨事、として国内外から対応を迫られていた。

 今回の作業は特別に開発したクレーンを使い、核燃料を取り出して1体ずつ輸送容器に入れた上でトレーラーに積載。約100メートル離れた共用プールに移す、というものだ。

 事故で壊れた建屋での燃料取り出しは世界でも例がない。手探りの作業である。

 燃料をつり上げる際、小さながれきが引っかかるなどして破損すれば最悪の場合、放射性物質が飛散する恐れがある。不測の事態に見舞われ、クレーンから燃料や輸送容器が落下する可能性も排除できない。

 いまのところは、比較的扱いやすい未使用燃料を移す作業にとどめている。強い放射線を出す使用済み核燃料となれば、より難しい。4号機での作業は来年末までに終えるというが、慎重を期すべきだ。

 現場は極度の緊張を強いる上、被曝(ひばく)を伴う。スケジュールありきで作業員の健康管理をおろそかにしてはならない。

 これでも廃炉作業全体からみれば序章にすぎない。30~40年かかるといわれ、さらなる困難の連続となる。

 1~3号機の建屋では、格納容器を冷やすための水が漏れ出し、高濃度の汚染水となってたまっているとみられている。周辺は線量があまりにも高く、人間が作業できないのが現状だ。

 やはり大量の使用済み核燃料がプールに保管されているが、取り出し方法は固まっていない。さらにやっかいなのは、原子炉内で溶け落ちた燃料である。どの辺に落ちているのかも分からない。取り出しに必要な技術は見通しすら立たない。

 日本では原発建設を推進する一方で、廃炉の技術は事実上後回しにされてきた。電力会社や企業などでつくる「国際廃炉研究開発機構」がやっとことし発足している。溶融燃料の取り出しに必要な技術の研究開発を加速させてほしい。どの原発も廃炉は避けて通れない。

 肝心なマンパワーも、数十年にわたり確保できるのかが懸念されている。東電の汚染水問題は、予算も人手も不足し、不慣れな作業員が増えたことが背景にあるとされた。廃炉作業で同じ問題が起きないとは言い切れないのではないか。

 原発推進の代償がいかに深刻であるか、思い知らされる。生身の人間に負担を強いる現状のやり方には限界がある。溶融燃料を回収するロボットの開発をはじめ、作業を極力無人化する試みは人道の面からも喫緊の課題にほかならない。

(2013年11月20日朝刊掲載)

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